アートプロジェクトの現場から外国ルーツの若者の
支援について考える

これから求められる活動や取り組みとは?

ナビゲーター

海老原周子一般社団法人kuriya代表、通訳

メンバー
  • 大学生
  • 作家
  • コミュニケーター
  • ダンス・アーティスト
  • 会社員
  • プロジェクトマネージャー
  • 団体職員
  • 保育士
  • 大学教員
  • など22名
運営(コーディネート)

桑原優希一般社団法人kuriya理事

運営(記録)

西内亜都子コピーライター、編集者

スタディマネージャー

坂本有理アーツカウンシル東京 プログラムオフィサー/「思考と技術と対話の学校」校長

11.26(金)

第1回

場所:オンライン

アートプロジェクトの現場から見えてきた状況と課題

1/4

「アートプロジェクトの現場から外国ルーツの若者支援について考える」シリーズ全5回のイントロダクション。ナビゲーターである海老原の10年以上にわたる取り組みを3フェーズに分けてたどる。海老原とは独立行政法人国際交流基金に勤めていた頃から共にワークショップを企画し、kuriya設立後も共同開催するなど、活動初期からその後の変遷を知る三富章恵さん(現「NPO法人アーツセンターあきた」事務局長)が聞き手となってアートプロジェクトの現場の状況や課題に語る。

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フィリピン貧困層の若者のエンパワメントを目的とした

「Rap in Tondo」ワークショップ&ライブ

若者のエンパワメントを目的に、ヒップホップのワークショップとライブを通じて、フィリピンの貧困地区や紛争地域の若者を支援するプロジェクト。三富さんがフィリピンに駐在していた際に実施したものでフィリピン、日本、ドイツ、フランスの4カ国のヒップホップアーティスト(日本からはおみゆきCHANNELを招待)が参加し、共演した。翌2012年にはkuriyaとコラボレーションし、新宿でワークショプ「Rap in Tondo 2」が開催された。

彼らが逆境のなかで培った経験は社会にいかせるはずなのに、チャンスを広げる選択肢を失してしまうのは非常にもったいない。

アートワークのなかに教育的な要素も多分にあると思っていた。居場所があって、達成感や自己肯定感が育まれるからこそ、もっとチャレンジしようとなる。

「多様性」は育むものではなくてすでに存在しているのに、学校教育で矯正されてしまうのか。学校教育に役割はあるけれど、一人の人間を社会に送り出す上でスキルを獲得しなげればいけないことも認めてもらえるようになるといいんだろうな。

社会に対してどうやって声を上げるかを主眼に、かつ自分の表現力をコミュニティにいかそうと真摯に向き合うアーティストがいるからこそ、アートの可能性に共感した。それを思っていまに至っている。

コミュニティや縁から切り離された若者たちと外部との関係性を編んでいく仕事だった。直接的にアートが解決できることは少ないけれど、本音が集まってくる場の声を届けることに必死で。

12.10(金)

第2回

場所:動画配信

アートプロジェクトにおける連携と役割

1/6

第2回のゲストに迎えたのは、香港アートセンターが主催するifvaのアシスタントプログラムマネージャー・To Yee-lok Tobe(以下、Tobeさん)。東京でもナビゲーターの海老原と共同で映像ワークショップを実施している。今回は二人に共通するアートプロジェクトの課題やその解決策を探っていく。まずTobeさんにより香港の移民(エスニックマイノリティ)の若者を対象とした映画製作教育プログラムが紹介され、後半は海老原とのディスカッションを行った。

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香港にいるエスニックマイノリティの中高生を対象に実施

映像制作キャンプ「All about us」

香港の短編映画やアニメーション、メディアアートなどをプロモーションするプラットフォームとして、さまざまなプログラムを実施しているifva(incubator for film and visual arts)内のプロジェクト。香港のエスニックマイノリティの中高生に映像制作を教えるこのプロジェクトは、香港アーツ・デベロップメント・カウンシルよりアート教育の分野でアワードも受賞している。

さまざまな役割や担い手がフィルムメイキングや自己表現の場を一緒につくっていることがよくわかる。

文化の壁や差別、偏見を描き、物語を伝えること。映像だからこそできる表現や力があると思った。

「All About Us」は中高生の参加者と大学生も一緒にキャンプを行う体制もおもしろい。ユースワークが取り入れられたロールモデルのような役割があると感じた。

中高生メンターは身近な友達のような存在。Teaching Artistも先生というよりファシリテーター的な位置付け。こういった姿勢が学びのプロセスを共同的なものにしていると思う。Teaching Artistとも、キャンプ前の企画から一緒につくり上げているからこそ同じ目線で運営できるのではないか。

キャンプには共通言語を英語として教えるTeaching Artistや文化的差異をよく知るソーシャルワーカーが関わり、参加した若者たちはキャンプ後もつながりを持つことができる。

12.24(金)

第3回

場所:動画配信

社会包摂の学びの場 ~担い手を育てる~

1/4

第3回のゲストは東京を拠点にフリーのデザイナー、プログラマーとして活動しているAvinash Ghaleさん。新大久保で実施したアートプロジェクトに参加し、kuriyaのユーススタッフとしてワークショップの企画運営やファシリテートも担ってきた。数々の現場を経験してきた当事者である二人の視点から「アートプロジェクトの現場では何が必要とされているのか?」「今後、外国ルーツの若者たちと共に取り組むプロジェクトで求められる担い手とは?」を考える。

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ステンシルと光のライトペインティングのワークショップ

「Light painting Party」

プレゼンテーションで紹介されたワークショップの動画「Light painting Party」はAvinashさんが新宿アートプロジェクトで実施した、ステンシルと光を用いたライトペインティングの様子。kuriya設立以降はそれまで以上に多くのワークショップを実施し、ドキュメント動画をYouTubeで公開し、ネパール人コミュニティで流行っていたVLOGや写真のワークショップを開催するなど意欲的に活動している。

アートワークショップは、さまざまなバックグラウンドを持つ人々に出会えるハッピーで楽しい場所。

若者たちを写真や動画に記録することで、自身が一人の表現者であることを自覚していったように思う。

「カメラ」というツールを通じて対話をしていた。同じ境遇にいる外国人同士だからこそ言語や文化という側面から異なるアプローチをすることができた。

ビデオや写真のスキルだけでなく、移民社会の状況に関心を持ってアートプロジェクトに参加していたとは驚き。意識的に仕掛けたわけではなかったので。

アートは他の若者とのかかわりを持つための重要な要素だった。

インタビューや調査だけでは、彼らは自身のことを話してくれなかったと思うのです。文化ナビゲーターのような存在が、日本社会へ新しく入ってきた人に言語や文化をナビゲートする、つまりソフトランディングができていたのでは?

1.28(金)

第4回

場所:動画配信

アーティストと共につくる

1/4

第4回のゲストは、写真やビデオの制作・パフォーマンスを行うクアラルンプール在住(ペナン島出身)のヴィジュアルアーティストOkui Lalaさん。地元の大学では講師を務め、ワークショップのファシリテーターやコミュニティのリサーチャーとしても活動している彼女とのディスカッションで、多文化な若者たちやアーティストと協働する上でのかかわり方について考える。

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東京のまちなかで異文化を撮影する

「ルービックキューブツアー」

Okuiさんがkuriyaと協働したプロジェクト。参加者はまちを歩き、例えば店の看板などを撮影し、撮った写真がどこからもたらされた文化なのかを話し合い、カテゴリーに分類してルービックキューブに貼り付けていく。自分たちの文化を見つけると同時に、異なる背景を持つ人々が共同作業しながら異文化を理解する。参加者の多様性がいかせるプロジェクトであり、そのプロセスは教育的な学びの視点を得るだけでなく他者性への意識啓発にもつながった。

変わり映えないように見える日本のまち並みのなかにも、色々な文化があるということに気づかされました。

インドネシアの家事従事者の言葉を引用すれば、アートはブリッジ(橋渡し)である、異なるコミュニティに橋を架けるものだと言っていました。

移民の若者は良い意味でセンシティブな観察者です。若くて同時に大人でもある。国を離れてサバイブ(生き残っていくことを)してきたからかもしれません。そういうスキルや自分の考えを披露する機会がない彼らの自主性を尊重します。

ステレオタイプでは語れない一人の人間、夢を抱く若者たちであることを、kuriyaやプロジェクトパートナーから学んだと思うのです。

多様な人がいるマレーシア、私たちの社会で寛容という言葉を使います。アイデンティティを探る、強みを見つける、歴史を知ろうとする背景が役立っているんだと思います。

プロジェクトパートナーとの交渉の余地を探すというか、相手の話を聞きながら共通のポイントを見つけて、どこがシェアできるのかを考えるんですね。

Noと言っていいというお話がとても印象に残りました。もし意図が合致しないなら、アーティストの側からNoと言ってもいいんだと思います。

2.25(金)

第5回

場所:オンライン

ゆるやかなつながりと制度・基盤づくり

1/1

シリーズ最後は、これまでの第1〜4回を坂本有理(「思考と技術と対話の学校」校長)とのディスカッション形式で振り返る。各回ゲストとの対話から、印象的なキーワードが挙げられた。海老原が若者を支援するようになった2016年の東京アートポイント計画事業「Betweens Passport Initiative」以降の活動についても紹介し、アートプロジェクトの限界と可能性についての考えを深める。ライブ配信を視聴する参加者からは質問や感想が寄せられた。

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Betweens Passport Initiative

定時制高校での放課後部活動「多言語交流部(One World )」

2016年、東京アートポイント計画事業の一環で、若者たちの多様性を育てる人材育成事業「Betweens Passport Initiative」がスタート。移民の若者が多く在籍する都立定時制高校に居場所をつくることを目的としたワークショップやプロジェクト実施した。この取り組みは、同年に海老原が設立したkuriyaと東京都、アーツカウンシル東京の三者が協働している。以降、海老原は自身の活動を若者支援の仕組みづくりや政策提言へと方向転換していく。

表現の場で役割をもてるということは、重要な要素だったのではないでしょうか。

ワークショップのボランティア。次はユーススタッフに。そしてアーティストとしても、どんどん能動的にかかわっていくことができる。kuriyaという場所の存在がとても大きかったのかな。

若者たちとプロジェクトを準備していた時「外国ルーツってなんですか?」と聞かれて、はっとしました。

本当は「移民」「外国ルーツ」という言葉もしっくりこなくて、当初はむしろ多文化な若者と呼んでいたんです。難しいな、とつくづく思います。

“東京で何かを「つくる」としたら”という投げかけに対して行われた、
さまざまなスタディ(勉強、調査、研究、試作)の記録です

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