2019.2.13 (水)
第9回
場所:TOPPING EAST
オルタナティブという探究心
2000年にスタートし、いまや “4大ロックフェス”のひとつに数えられる『サマーソニック』。今回はこのサマーソニックを主催し、国内外のミュージシャンのライブを企画制作するプロモーター、クリエイティブマンプロダクションの平野敬介さんをゲストに迎えて、音楽産業の現場の声を聞いた。
平野さんは、コンサートを企画してお客さんに見せるコンサートプロモーターの仕事を続けてきた。ワールドミュージックのコンサート制作などを手掛ける会社を経て、パルコの音楽事業部でライブハウスのクラブクアトロ、音楽レーベルのクアトロレーベルなどに携わり、2003年からクリエイティブマンプロダクションに所属。2009〜2011年には細野晴臣やヴァン・ダイク・パークスなどが出演した音楽イベント『De La FANTASIA』を手掛け、2012年からは音楽ライブとアートの展示、トークセッションなどを行う『Alternative Tokyo』を開始した。
ここで『Alternative Tokyo』の“Alternative”とは何かという話に。平野さんは「すごく多義的な言葉だけど、ジャンルとしてのオルタナティブは統一した形があるわけじゃない。でも、ジャンルが違っていても音楽に対する普遍的な探究心があって、その形態をオルタナティブとくくると分かりやすくなる」と言い、このイベント自体もフェスではなくお客さんが積極性、探究心を持って見にきてもらえるショーケースイベントとして立ち上げたと説明した。さらに、1990年代後半はオルタナティブなミュージシャンが出てくる時代で、メジャーやマイナーが混じっていたこと、1997年に開始した『フジロックフェスティバル』が探究心を持って音楽を聞く人たちが集まるスタートだったのではないか、といった指摘がなされた。
また、なぜイベント名に“Tokyo”がついているのかと清宮陵一から問われると、地方ではこういった音楽を探求できるイベントを開催できる環境をつくるのが難しいことを挙げた。さらに、2019年は渋谷のライブハウスWWWと WWW Xを会場に設定したが、渋谷がとりとめのない街であると同時に、人が自由な発想で好きなことをやっている街でもあることから、今回は『Alternative Tokyo』を渋谷のライブハウスで、出入り自由として開催することに決めたそうだ。
そんな平野さんに清宮が、いま音楽を牽引しているものは何かと投げかけたところ、「ムーブメントはないけれど、ウェブで検索してそこからどんどん情報を掘っていくような人たちはたくさんいるんです。そういう人たちは絶えることがない。だけど、その先の深まりみたいなものをどうつくっていくのは常に課題です」と答え、サブスクリプションが定着しつつある現在、ライブでパフォーマンスができる人にとっては、海外で活躍しやすい時代になってきたのではないかと清宮が続けた。
そのほか、国外のアーティストを招聘する際の段取りや、パルコ時代にかかわったインディーレーベルと協働での実験性の高いロックフェスについてなど、時代をまたぎながらイベント企画制作を続けてきたからこその実感のこもった声を聞くことができた。
最後に質疑応答の時間が設けられ、メンバーからフェスは今後どのように変化していくと思うかという質問が挙がり、「好きなミュージシャンを目当てに行って、たまたま見かけたバンドを好きになるかもしれない、という数万人規模のフェスが絞り込まれ、焦点を絞ったものに分散していくかもしれない。ただ、そこでの見せ方が分かりやすくないと、フェスやイベント自体がなくなってしまうとも思います」と平野さん。既存の形ではない、新しい音楽の需要は常に生まれていることと、興行の世界でその需要をいかにピックアップしていくのかが垣間見えた回だった。
Text=高橋創一