2019.9.7 (土)
第3回
場所:豊島区雑司が谷
雑司が谷で過ごしてみる
第2回から日を置かずして行われた第3回では、フィールドワークとして豊島区の雑司が谷を探索した。
雑司が谷は池袋駅の南東に位置し、古いまち並みがいまでも残る場所だ。毎年10月16日~18日に雑司が谷で行われる「御会式」(おえしき)は、もともとは日蓮聖人を供養するための仏教の行事として行われていたが、雑司が谷で出土したという鬼子母神像への信仰といつしか溶け合い、「鬼子母神 御会式」(きしもじんおえしき)として、日蓮宗に限らずさまざまな信仰をもつひとを受け入れながら、江戸時代からひとびとに親しまれ連綿と続いてきた「お祭り」だ。石神夏希は東アジア文化都市2019のプログラムのひとつとして「Oeshiki Project」を立ち上げ、雑司が谷や豊島区内の外国人居住区などのリサーチを行うとともに、プロジェクトの集大成としてツアーパフォーマンス≪BEAT≫を御会式と同時期に開催する(詳細はこちらを参照)。スタディメンバーはアートプロジェクトを観察・記述するためのケーススタディとして≪BEAT≫に参加することになっているが、その前に雑司が谷のまちを一度歩いてみることで、どんな<まち>でどんな<アートプロジェクト>が行われるのかの手掛かりを発見することが、今回のスタディの目的だ。
ジュンク堂書店池袋本店の入口前に集合したメンバーは、スタッフの高須賀先導のもと、まずは御会式の最終目的地である法明寺と鬼子母神堂を目指す。途中で老眼鏡が壁にびっしりと敷き詰められた謎のお店の前を通ったり、お寺で猫と遭遇したり。鬼子母神堂では地域のひとに交じってメンバーもお参りをする。鬼子母神堂を抜けて、参道であるケヤキ並木へ。この日は暑い陽射しが照り付けていたが、並木道の影は少し涼しい。ケヤキ並木を抜けて、都電荒川線沿いを歩いて大鳥神社へ。この日はちょうど大鳥神社のお祭りをやっていて、神社にたどり着くとこどもたちのお神輿が奉納されるところだった。境内の櫓舞台では神楽の演奏が行われている。線路を越えて弦巻(つるまき)通りを歩いていると、通りかかった公園でおじさんに「コーヒー飲まないかい?」と声を掛けられる。どうやらコーヒーをふるまってくれるらしいと思い寄ってみると、なんと自分でコーヒー豆を挽かないといけないという。メンバーのひとりが一生懸命コーヒー豆を挽いている間に、通りをさっきとは別の子供のお神輿が神社へ向かって去っていった。おじさんに別れを告げて、弦巻通りを左折し坂道をまっすぐ上ると、雑司が谷霊園に出る。夏目漱石の立派な墓の前で一度解散し、しばらくメンバーそれぞれの自由行動となる。
豊島区役所前のカフェのテラスに再集合し、日中不在だった石神も合流して、この日遭遇したものを報告し合う。霊園近くにある旧宣教師館や、弦巻通り沿いのパン屋さんや本屋に寄ったり、「雑二ストアー」と呼ばれるレトロなマーケットの隣で行われていた紙芝居をみたり、大鳥神社へもう一度行ったり。短い時間のなかでもさまざまな出会いや発見があったようだ。また、雑司が谷は池袋の近くにありながら池袋とは雰囲気が違っていて、異空間に来たような、ワープしたような感覚だったという感想も出る。地域のひと同士で挨拶を交わしたり、どこか“懐かしい”コミュニティの在り方がここにはある。「Oeshiki Project」のために昨年から雑司が谷にかかわり続けている石神からは、鬼子母神がある種のアジール(聖域/自由領域)のようになっていて、誰のものでもないしみんなのものという空間、みんなのこころ のセンターみたいな空間になっているという指摘があり、それを受けてメンバー(朝山紗季)から、みんなが知っているものがあるから、地域のひとたちがお祭りに参加しやすいのだろうか、という意見があった。また、他のメンバー(富樫朱梨)からは、地元のお祭りの経験から「生活の一部としてお祭りがある」と感じたという意見も。「お祭り」とは日常からかけ離れた特殊な行為なのではなく、日常や普段のコミュニティの地続きとしての時間としてあるのだろうか。そして、まちに佇み、まちを記述することは、自分の生活の時間がまちの日常の時間に組み込まれていく(なじんでいく)こととつながっているのかもしれない。
Text=高須賀真之