2021.8.29 (日)
オンラインイベント
2人の芥川賞候補作家が見た「関わりの記録」とは? CROSS WAY TOKYOウェブサイトローンチイベントが開催
2020年度に実施された、Tokyo Art Research Lab 東京プロジェクトスタディ3「CROSS WAY TOKYO ―自己変容を通して、背景が異なる他者と関わる」を通じ、参加者たちが制作したメディア作品を掲載するウェブサイト「関わりの記録 Reflective Notes」のローンチ記念イベントが8月29日(日)、ROOM302(3331 Arts Chiyoda)からのライブ配信で行われた。
ゲストに作家の小説家の温又柔さんと木村友祐さんを招き、自己と他者との関係性について参加メンバーと意見を交わし、作品を寸評し合った。
共に芥川賞候補にもなった温さんと木村さんは、共著『私とあなたのあいだ いま、この国で生きるということ』(明石書店)で現代社会における人間関係などについて意見を交わしている。スタディ3で取り組んできたことと重なる内容も多かったことから、ナビゲーターの阿部航太が出演を依頼した。
イベントでは冒頭、阿部によるウェブサイトの解説に続き、約半年にわたるスタディをまとめた約40分のドキュメンタリームービーを放映。
スタディでは、自分と異なるルーツを持つ人々とコミュニケーションをとる際に感じるハードルの正体は何か、ハードルを超えるためにどうすべきか、それらをどう第三者に伝えるかなどについて、自省したり参加メンバー間で議論したりしながら思考してきた。ムービーでは、そうした活動の様子や、メンバーの思いの変遷などを紹介。温さんと木村さんは、それぞれ「自分も皆さんとこのテーマを考え抜いたような錯覚が起きるほどでした」「自分ごとのようにひりひりしながら映像を見ました。他者に歩み寄ろうとしても断られてうまくいかなかったり、生々しくていいな」と感想を述べた。
—————
続いて、トークセッションに移行。
最初に阿部がスタディの狙いや経過を振り返り、「自分とは価値観が違う人と関わりたい、それを突き詰めてきた8ヶ月でした。」と話すと、温さんは「『自己変容を通して』というのを含んでいるのがすごく重要だなと思います。“自分は1ミリも変わりたくないけど、あなたを飼い慣らしたい”というアプローチでは、(取材などで)協力してくれない人も多かったと思います。皆さんが、『自己変容』という態度を一貫してきたんだろうなと感じました。」と称えた。
また、木村さんは「自己変容は痛みが伴う。外に取材に出ていくということを続けるのは、大変だし難しい。どうやって続けていくか(が重要で)、それは僕自身の問いでもありますが」と、継続的な活動に期待を寄せた。
その後、いくつかのメディア作品をピックアップし、それぞれの制作者も参加して作品について意見を交わした。
●インタビュー記事|家族のなかで「ルーツ」が意味するもの(企画・制作者 戈文来)
在日中国人二世の戈文来(か・ぶんらい)は、スタディ期間中に妊娠していることが分かり、自分が親から何を受け継ぎ、何を我が子に伝えるべきかについてのインタビューや自身の思索を「家族のなかで『ルーツ』が意味するもの」として文章にまとめた。
木村さんは「特にエッセイが胸に染みた」と語り、「戈さんは幼くして上海のおばあちゃんの家に預けられた。最初は、当時の中国の暮らしが日本と比べて“ガサついている”ように感じたようだけれど、きっとおばあちゃんたちにとても可愛がられたんだと思う。そうした、人々との心のやりとりを伝えることの大事さがよく分かる文章でした」と感心した様子だった。
台湾生まれの温さんは「このスタディ期間中に子どもを授かったというのが運命的。自分の中の“源”みたいなものを表現することって難しいですよね。日本においてマイノリティでいると、その源を表現することを強いられることもある。“自分のなかの中国”に真剣に向き合わないといけないのでは、というような。戈さんが、そのことも悩みながら現在の心境にたどり着いたというのが、2020年代の日本社会の変容の一つにもつながっているのではないでしょうか」と感想を語り、戈も「ある種、妊娠によってこのテーマを与えられたというのはラッキーだったなと。ぜひ今後も続けたい」と応えた。
●ZINE|Collection of Goodbyes ~別れのモノがたり~(企画・制作者 Naoko Yokoyama)
大学で言語教育を専攻する横山直子は、「“多文化共生”とか大きなものに取っ付きにくいと思っている人に、できるだけポップに、ルーツに関係なく、人々の多様性を感じてもらえたら」という思いで、友人を中心に、人々の「別れ」にまつわるものの写真とそのエピソードを「Collection of Goodbyes 〜別れのモノがたり〜」と題してZINEにまとめた。
木村さんは「『海外ルーツのラベリング』という言い方がとても的確でした。便宜的に使わざるを得ないんですが、使い続けていると、なんか嫌な感じというか、ほかに言い方がないかなと思うんですよね。ラベリングを当たり前と思っちゃいけないなと感じました」とコメント。「別れのエピソードが、ささやかだけど心に刺さりました。そこで『国や立場は違えど、やっぱり同じだなあ』と思えるんです」。
また温さんは、「親しんでいたものと別れるのって痛みが伴うし重大。それを愛おしいかたちにするきっかけを横山さんが取材対象者に与えているとも言えますね」と指摘。横山も「作品を集めるにあたり、その人の別れを作品にするのはおこがましいかなという不安もあったのですが、『自分のエピソードを振り返り言語化することで、また違う発見があった、ありがとう』という声もいただきました」と人々の反応を紹介した。
—————
スタディ参加者たちとのトークセッションの後、木村さんは、メンバーの作品に共通して感じた点として、「僕らは人と関わるときのことを真面目に真摯(しんし)に考えがちだけど、もう少し適当でもいいんじゃないかという気持ちにもさせられた」と語り、「真面目さだけが正解でもなさそう。もうちょっとおおらかな気持ちで、失敗してもいいじゃんと臨むのも大切かもしれません」とアドバイス。阿部も、「参加者たちも最初は正解を求めていましたが、このメディアをつくることによって、自分の言葉で話したり自分の目で見るようになったりし始めたんだと思います。ここから、おおらかな関わり方が生まれてくることを期待しています」と今後に向けて気持ちを込めた。
Text=鷲見洋之