2018.10.26 (金)

第2回

場所:ROOM302(3331 Arts Chiyoda)

日本から、東京から離れた場所で

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前回はメンバー同士がインタビューを行い、お互いの話を聞きあったが、今回から石神夏希が「これまでに一緒に何かをつくったことがある人」の中からテーマに応じてゲストを招聘し、議論を交わしていく形を取ることとなった。今回のテーマは「日本から離れてつくる」。東京というまち、ひいては日本という国から離れた場所に住む人とともに、「東京」で「つくる」ことについて、どのような考えが生まれていくのだろうか。
その前に、まずはメンバー各自が執筆したエッセイを共有し、それぞれの文章に対して意見交換をした。方言と標準語の使い分け、それに伴って変わる人との距離感、「東京の言葉」を使うことの意識についてなど、さまざまな声が交わされた。

エッセイの感想が盛り上がったところで本題へ。ゲストにお迎えしたのは、俳優の井上知子さん。現在ベルリン在住のため、テレビ電話越しでの対話となったが、東京が活動のベースになるかもしれないという変化のタイミングにある。
普段はアーティストの制作サポートをすることが多い井上さん。まずこれまでに携わった作品の一つ、チョイ・カファイ《存在の耐えられない暗黒》の記録映像を皆で鑑賞した。これはイタコに呼んでもらった舞踏家・土方巽の霊に、インタビューと共同制作の講評をしてもらうという作品で、日本で上演したときは賛否両論を呼んだという。しかし、「デュッセルドルフなどで上演したときには、面白がることと不真面目なことはイコールではなく、面白がってなおかつ誠意をもつことは両立すると感じました」と説明。そのこともあり、宗教関係のトピックに限らず、日本人は何か「恐れ」を抱いているのではないかという印象を抱いていた井上さんだが、時間が経ってそれも変化しているように感じると続けた。「私は2014年に、東京が本当に嫌で離れたんです。でも4年半経って、東京もすごく変わってきていると思って。私の気持ちが変化していることもあると思いますが、東京の人たちも少しずつ開いていっているというか、恐れを乗り越えている印象があります」と述べ、「日本から離れて」いる立場から見えたことを語った。

ディスカッションの後半、井上さんからメンバーに「皆さんは東京のことが好きですか?」という問いかけがあった。各人悩みながらも、「常に新しい感覚が落ちている、自分で全てを把握しきれないところが東京にいて一番楽しい。満足してないからこそずっと居続けたいと思っている」「家族に対して単純に“好き”と言い切れない感じに近い、“好き”という感じを持っている」「好きか嫌いかを考えるほどの距離感すら、どこまであるのか」「自分が演劇をつくったりしていなければ、何も考えずに居心地良くいられたような気もしている」など、思うところを説明した。
最後に、井上さんが冒頭で東京に戻ると語ったことについて、「すごく大事な気がする。気持ちが合うからではなくて、違和感を求めて行くことや、インプットを求めて行くところもあると思う」と石神が反応。
井上さんは「東京にはイガイガしたものがある。だからこそずっと演劇をやってこられたのだろうし、社会に働き掛けていく意識もあった。だけどベルリンに来て、生活が自分の人生のメインになると、自ずと創作活動をしなくてもよくなった。それに少し疑問を感じ始めたときに、呼び戻されるような形で東京に行くことになりました」と現在地を語った。

「東京が好きな気持ちと同時に、東京でやることがあると思っているという話が、このスタディの今後にもつながっていくのではないか」とまとめた石神。一度離れたから見えてきたもの、時間が経過することで変化したものについて思いを巡らせる時間となった。
また、このディスカッション終了後、井上さんにもエッセイを執筆していただくことになり、後日『パラレルワールドTOKIO』と『儀式のつくりかた』と題されたテキストが届いた。

Text=岡野恵未子

関連資料

第2回についてのお知らせメール
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差出人:嘉原妙

2018年10月22日(月)

件名:第2回スタディ1について

みなさま

こんにちは。スタマネの嘉原です。
第2回のスタディ1は、井上知子さんをゲストにお招きします。
当日は、ベルリンとROOM302をつないでディスカッションを行います。
今回、なぜ井上さんのゲストに迎えてディスカッションしたいと思ったのか、詳しくは、下記にあるナビゲーター・石神夏希さんからのメッセージをご覧ください。

【概要】
日時:2018年10月26日(金)19:00〜21:30
会場:ROOM302
ゲスト:井上知子さん(パフォーマー/ベルリン在住)
テーマ:「日本から離れてつくる」

【参考文献】
第2回のディスカッションに向けて、いくつか参考文献をご紹介します。
全て読むことは難しいと思いますので、気になったものや小田嶋隆さんのコラムなどに目を通しておいていただけると嬉しいです。
もしかしたら、既にお読みになられたことのある書籍もあるかもしれません。もし、お持ちのものがありましたら、是非、次回持ってきてください。
いくつか、私も持っている書籍があるので当日持っていきます。

小田嶋隆 日経ビジネス「21世紀のオウム報道から消えたもの
・小田嶋隆 ハルマゲドンと「グレートリセット」という願望
 →2012年にこういう記事も書いています。でもすごくライトな触れ方。(編注・2019年5月現在、掲載されていた『日経ビジネス電子版』から該当記事が削除されている)
・村上春樹『1Q84』(新潮社、2009-2010/新潮文庫、2012)
・村上春樹『アンダーグラウンド』(講談社、1997/講談社文庫、1999)
・森達也『A3』(集英社インターナショナル、2010/集英社文庫、2012)
・片山洋次郎『オウムと身体』(日本エディタースクール出版部、1995)
・宮沢章夫『東京大学「80年代地下文化論」講義 決定版』(河出書房新社、2015)

下記、石神さんから第2回目に向けてのメッセージが届きました。

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第2回ゲストの井上知子さんについて

私と知子は、中高一貫校の演劇部の先輩・後輩の関係です。大学時代には私の劇団で一緒に活動もしていました。その後、彼女は海外留学を経て、ベルリンに拠点を移しました。そういった変遷の過程すべてを知っているわけではないのですが、留学から帰国した彼女の様子は留学前とずいぶん変わっていました。なんだかとても居心地悪そうで、日本の人たちにも周囲の環境にも社会にも、不満や言いたいことがいっぱいあるように見えました。

ベルリンに移ってからの彼女は、悩みもあったみたいだけれど以前よりずっと落ち着いて見えました。その様子を見て、彼女はもう日本には帰ってこないのかもしれないな、と思っていました。そんなとき今年2月のTPAMで、彼女がリサーチの段階から通訳・パフォーマーとして関わっている『UnBearable Darkness (work-in-progress)』を観ました。彼女はシンガポール人である作家・チョイ・カファイと、舞踏のバックグラウンドを持つダンサー・捩子ぴじんと共に恐山に土方巽の霊を訪ね、イタコ役として舞台に立っていました。
その後、2018年初夏に麻原彰晃をはじめ元信者たちの死刑が一斉に執行されたとき、彼女がFacebookで森達也氏のインタビュー記事をシェアしていたのを見ました。私は2017年にフィリピンに滞在しているとき(過去にはどうにも読む気が起こらなかった)『アンダーグラウンド』(村上春樹)を一気読みした経緯もあり、次に彼女と会ったらこのことについて話してみたい、と思いました。

ヨーロッパへの留学経験を持つ日本人アーティストや、海外を拠点に面白い活動をするアーティストは山程いると思います。その中で彼女を選んだのは、単純に、私と彼女が他の人より人生の長い時間を共有し(私が16歳、彼女が12歳の時から)現在地に辿り着くまでの道程をよく知っているから、という理由です。また私と彼女の関係性はアーティスト同士というよりある意味で幼馴染みたいなもので、聞きたいことを率直に聞けるし、くだらない悩みでも正直に相談できると思ったから(一応、公開お悩み相談でもあるので)です。オウム真理教のことは、今回は時間も、また私の中に十分な予備知識も準備もないので深く突っ込むことは避けるつもりですが、もし関心のある人や、何か言いたいことがある人は聞かせてください。

ちなみに彼女は今回のスタディのことをFacebookで見て、日本にいるなら参加したいと思っていたそうです。皆さんにとっては初対面ですが、同じ「東京でつくる」を考える仲間として、ざっくばらんに語り合う場になれば嬉しいです。

石神夏希

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お知らせは、以上です。
どうぞよろしくお願いいたします。

第2回の宿題に関するメール
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差出人:石神夏希

2018年10月30日(火)

件名:第2回の宿題に関するメール

こんばんは。石神です。
金曜日は、プロジェクトスタディ第2回おつかれさまでした。

運営サイドとしていろいろ反省はあり、また限られた時間でしたが
次回、次次回へと引き続き、話していきたい論点も出てきたような気がします。

事前打合せでは結構オウムの話が出たので、オウム関連の関連書籍が多かったのですが
実際のお話ではあまり触れることが少なく、困惑させていたら申し訳ありません…。
個人的には「東京でつくる」を考える時にけっこう大事なテーマではないかと思っています。

結局、「平成が終わる前に」的な理由で(なのか?)
麻原彰晃はじめ主犯格とされる元幹部は死刑になったわけだけど
何かよくわからないもの、理解不能なもの、恐ろしいもの、
自分たちの社会が生み出した、かつては自分たちの一部であったはずの
阻害された存在≒他者性を徹底的に排除しようとする傾向だとか
実際の死と切り離された年号の切り替わりとか、四年に一度とか
2020という語呂の良さみたいな、実際にはなんの意味もない任意の点Pを口実に
(それは「東京都」の道路標識にも、似たような不条理感を覚えるのですが)
けっこう乱暴に、スクラップ&ビルド&大掃除されているような中で
全部景色が変わってしまってからでは、この危なっかしさも不安も
もう思い出せなくなっちゃうんじゃないかとか。

一方で、「悪」を命を奪ったり犯罪的な形に至るまで抑圧するのではなく
どうやって文化の中でうまく生かしていくのかとか。。。
また何かの折に、皆さんとお話できたら嬉しいです。

◆エッセイのテーマについて
前回はテーマ自由でエッセイをお願いしましたが、
今回は私からテーマを提案させていただくことになりました。
採用いただいても、別のテーマで書いていただいても構いません。

提案テーマ
A:つくるとき「見えないもの」とどう関わるか
B:自分が東京または日本を出ていく可能性
C:”おそれ”(怖れ/恐れ/畏れ)について思うこと
※タイトルは別途、つけてみてください。

上記3つから選ばず、自分の書きたいテーマで書いていただいてもOKです。

よくわからない、困った等、遠慮なくご質問ください。
どうぞよろしくお願いいたします。