2020.8.23 (日)
第1回
場所:Zoom
お互いの顔が見えないまま「出会う」「共に在る」
写真家、ダンサー、インタープリター(通訳者・解釈者)とともに、身体性の異なる人々の世界に触れる。 “ことば”による表現だけではないコミュニケーションの在り方を探り、 その可能性について考えていく。
こうしたテーマに惹きつけられたメンバーが集まったこの日。「イマジネーションワークショップ」と題して、ワークが実施された。ナビゲーターの和田夏実と南雲麻衣から共有された今回の研究テーマは「その人らしさを見つけてみる→その人のイメージを率直に記録する」こと。
手話通訳担当として、田中結夏と米内山陽子も同席し、音声言語・視覚言語どちらも共存するかたちで3つのワークを実施した。ステップ1 「声や文字で自己紹介」、ステップ2「自分の『顔』を描いて、伝えてみる」、ステップ3「おうちにいながら、街を歩いてみる」だ。
「声や文字で自己紹介」では、名前、職業または、趣味、外出自粛中にハマったことや身についた技についてそれぞれ共有。ただ共有の方法に指定があった。発話で自己紹介をする場合は、画面に共有されているGoogle ドキュメント上で音声入力を使用。発話しない場合は、文字で直接ドキュメント上に記入するということ。
普段、発話を通して他者とコミュニケーションをすることが主の人にとっては、伝えるための方法が違うことで生じる感覚があっただろう。指定された方法によってドキュメント上に打ち込まれる文字、誤字脱字を修正していく過程を見つめながら、顔の見えない他者と出会っていった。
「自分の『顔』を描いて、伝えてみる」は、紙とペンを使って自分の似顔絵を描く。描けた絵をZoomにつないでいるデバイスのカメラの付近にセットし、ビデオをON。それぞれが描いた絵を眺めた。
自分の顔を似顔絵で他者に伝えようとする行為は、自らの顔をどう捉えているのか、それを他者に伝えるためにどう表現するのかといった視点に立ち止まる機会でもあったのではないだろうか。他者の似顔絵や絵が描かれた紙を持つ手、映像の奥に映し出されているそれぞれの部屋など、顔が見えないなかでも得られる情報が多くあることも発見だった。
「おうちにいながら、街を歩いてみる」。Google Earthを使用し、メンバーに縁のある場所を訪れ、Zoomの画面を通して、ひとつの景色を眺める。そこに関連する個人の思い出や連想したもの、普段どのようにその景色のなかを通っているのかなどが語られた。
今回、3つのワークを通して、画面の向こう側にいるであろうメンバーの情報に触れた。しかし、お互いの顔は見えていない。彼らは、その中で生まれた身体感覚や感情の痕跡を残すために日誌をつけはじめている。あるメンバーの日誌にはこんなことが書かれていた。
「知らない人の心や顔を想像する時は、はっきりと輪郭を描くことができないでぼんやりとしたままの印象が頭に残っている。その印象は独特なもので、今まで自分が他人を思いやるときなどにも抱いていたものだと思い出した。はっきりとした形を持たないものだから、すぐに忘れてしまうし、日々のさまざまな出来事の中で消えていってしまうものだ。今回、じっと顔を合わせずに長い間話すことで、そうした淡い空気を掴むような手触りを改めて思い出した」
ナビゲーターの南雲は、今回のワークショップを振り返り次のように綴っている。
「このワークショップは、『他者を見た時に知覚すること』を考えされられるワークショップになったかなと思う。ラベルを貼るまえの、視覚情報で判断するまえの、誰がどんなひとだろうと混乱したり、今の声は誰だったのだろうと考えたり。なにか定まらない感じは、オンラインでしかできないことだった。Zoomの中にいる参加者の声は私には全く聞こえていない。そのため、参加者の声は全部手話通訳を通してみている。参加者たちの声が、一つのかたまりとして、手話通訳の田中さんと米内山さんに宿っていき、一人ひとりの顔や身体を知覚できないまま、別の田中さんと、別の米内山さんと出会っているような感じだった」
「顔が見えない他者の身体と思考と巡って」。あいまいな感覚に立ち止まることへの姿勢をメンバーそれぞれが持ちながら、研究を進めていく。「早く、みんなに会いたい」そんな気持ちと共に初回を終えた。
*****
写真1〜3枚目:当日はオンライン会議ツール「Zoom」を使用。画面共有機能を使うことでGoogle ドキュメントの資料を同時に見ながらワークを進めた。
写真4枚目:音声入力によってテキストがドキュメント上に打ち込まれていく。
写真5枚目:2つ目のワークは、自分の「顔」を描いて、伝えてみる。
写真6枚目:メンバーの似顔絵
写真8〜10枚目:Google Earthで訪れた場所の一部
Text=木村和博