2021.3.14 (日)
第11回
場所:ROOM302/301(3331 Arts Chiyoda)
誰にもなれない自分の身体に、一番近いコミュニケーションのあり方とは
2021年3月14日、アーツ千代田 3331内にあるアーツカウンシル東京 ROOM302/301で展示共有会が開かれた。タイトルは『 ver. LIVE』、「ver」の手前にある空白には、手話でコミュニケーションをあらわすときの手のかたちが入る。このスタディで「出会った、誰にもなれない素直な自分の身体と一番近いコミュニケーションとは何か、という問い。そして、たどり着いた」この日。7名のメンバーがかたちにしたものの痕跡を記録する。尚、それぞれの作品名は筆者が勝手に名付けたものである。
「書く」から身体と思考を味わうコミュニケーションボード/大塚拓海
机に3つのボードとペンが置いてあり、ボードにはさまざまな色の紙が多く挟んである。あるボードには「これは『かく』やりとりを楽しむ展示です」と書かれており、続いて、遊び方が記されている。この作品に触れる人は、任意のボード、ペン、紙を選択し、任意のタイミングで自由に「かく」を楽しむことができる。違う時間に書かれたであろう他者の文字あるいはイラストのようなもの、線を眺めることもでき、「かく」行為から他者の身体と思考の断片を味わうことができる。
体験者コメント:「自分ひとりで書く領域(横方向)に、他の人が加わることで縦や斜めなどの空間が広がっていた。筆談。ふだん話している時の声と筆跡から聞こえて来る声が違うという発見。言葉を発する時は、沈黙を埋めるように続け様に話したり、一度出た言葉を消すことは難しく、身体の上の方を使っている感じ。書く時は、思考をゆっくり紙に置いていけるし、途中で消すこともできるので、身体の真ん中から下から言葉を出しているのかもしれないと感じた」
あなたから見たわたしに出会う妄想企画「ゴハンしましょう」/佐藤卓也
テーブルに複数の企画書と手紙が並んでいる。企画書はメンバーやナビゲーター、それぞれに向けて「ゴハンしましょう」というお誘いの文言。それと共に、食事のときに話してみたいテーマ、そのテーマをあなたと話したいと思った理由、「お話しいただく内容が全て作り話でもかまいません」という文言が記されている。第三者として、それらを読むことは、ラブレターを密やかに読むような、佐藤さん自身のものの見方をこっそり覗く感覚があった。
「佐藤さんが出会った私に出会った。まだお互いに出会っていないお互いもいる、という楽しみ。ひとりひとりに宛てたお手紙、佐藤さんの人柄を感じる。おいしいものを共有しながら、また出会い直すのも、楽しみ」
他者の下書きに触れるテント/鍾淑婷
遮光したROOM301にテントが一張設置されている。テントの入り口の前には、メモ帳が置いてあり「痕跡を残してみてください」と記されている。靴を脱いで入ると、暗くて何も見えない。そこに何があるのかわからず、手で探る。おそらく、さまざまな生地の布、粘土、そのほかなにかわからないものたち。付箋があることに気づいた筆者はそれを剥がして貼り、なんとか痕跡を残した。誰にも見られていない環境だからか、他者の痕跡のそばに寝転ぶことができる空間だった。
「闇に入った時の匂いを覚えている。あと、あるキャラクターが『そろそろ目が慣れてきた?』と言っていた。あと、最後の網から先にいけないところがすごく面白かった。闇の中に白い何かがポワーンと浮いていた。あとで、ドアを半分開けた状態でテントの中を見たら(多分反則)色々なものが置いてあってびっくりした」
明確な宛名はない、それでも続くはずだと祈る、じぶん語/十代田詠子
ブースにPCが1台、「じぶん語のリレー」とタイトルが書かれた紙が置いてある。「じぶんなりの表現=『じぶん語』で、知らない誰かとリレーをしてみませんか?」という書き出しからはじまり、リレーをするための手順が記載されている。Instagramにアップされている他者のじぶん語をみること、それをみた「いまの感覚」を、じぶんなりのあらわしかたで動画撮影すること、それをアップロードすること。他者の表現を受け止め、そこで生じている変化を動画に残し、明確な宛名はないけれど、続くと期待してアップロードすること。わかりあえない他者とコミュニケーションすることへの祈りのようなものを感じた。
「これまで、バラバラだった、じぶん語がリレー状になって見ることができたので、ぐるぐる繋がっていく感覚がよくわかる。ルールはあるけれど、物理的なバトンはなく。けれども、繋いでいこうとする気持ち? 意志? のようなものを感じる」
身体から発話された言葉の置き所を巡るZINE/原口さとみ
テーブルに、三角の形で蛇腹折りされた、硬質な紙=ZINEが複数置いてある。そこには、直筆の文章が書かれている。筆者が読んだものは、どれも、その言葉を発したであろう人物の身体感覚へのこだわりが感じられるものだった。言葉をどこに、どのようなかたちで書き記すのか、言葉になる前の身体へのまなざしと、言葉は本来立体的な可能性を持っているのだ、ということを示しているように感じた。
「原口さんのZINEは冊子じゃなかった。バネみたいなZINE。手にとって、バネを回したり首を傾げて覗き込んで読む。端的に綴られる言葉の数々が、自分の筋肉に火をつけていった。体を動かしたくなった」
日々の中に在る焚き火を育む、遊びの火種/山田裕子
ROOM302の床に切り株が1本、その周囲に名刺くらいの大きさのカードが刺さっていたり、吊られたりしている。カードには、「他愛のない小さな遊びの種=火種」が書かれている。切り株から少し離れた机にも大量の火種が置いてあり、焚き火で薪をくべるような感覚で、遊びの火種を切り株やその周りに置くことができた。日常のなかで小さな遊びをそれぞれが実践することで育まれる共在感覚、あるいは一緒に焚き火を囲っているような感覚があるのかもしれないと感じた。
「火種は『明日の火種を考える』という火種をもらうことにした。メタ的な言及がとても気に入った。シャツの胸ポケットに入れていたが、最後、箱に折り畳んでそれに入れた。透明な線で吊るされている上の方にある火種を読もうとしたが、読むことができなかった。ジャンプしても虫眼鏡で見ようとしても、椅子の上に乗っても無理だった」
断片から掴みとり、漂う短歌/伊藤聖美
展示会当日、伊藤さんが、ROOM302に展示されている作品を一つひとつ体験。その感覚の余韻が残っているなかで、書かれた言葉たちがテーブルに並べられている。断片として置かれた言葉たち。それを見る人が自分の文脈を照射して短歌として掴んでいく。贈りたい言葉を、手渡すのではなく、選択可能な状態で置いておくこと。言葉の託し方に惹きつけられる展示だった。
「いくつかの歌の言葉を分けてある。『愛したろうか』仮定の話(愛しただろうか)?強い意志の話(愛してやろうか)?どちらとも取れるし、そもそも全く違うことなのかもしれない。さとみんによって書かれた言葉が、ぐるぐると私のお腹の中でまわる、不思議」
「共在する身体と思考を巡って」の手触り、におい、それぞれの感覚と出会い直すタイムカプセル/南雲麻衣、和田夏実、加藤甫、嘉原妙×メンバー
ナビゲーター 南雲麻衣、和田夏実、加藤甫、スタディマネージャー嘉原妙から、展示会を訪れたメンバーに、透明な箱「 Ver. Time capsule」が手渡された。
「この展示会の最後には、『 Ver. Time capsule』があります。メンバーのそれぞれの思いのモノを『 Ver. Time capsule』に入れてください。後日、これまでの歩みがぎゅっとつまった『 Ver. ZINE』とあわせてお届けします。これまでのスタディ1の取り組みのなかで、さまざまな身体とコミュニケーションが生まれ落ちたり、気づきや発見を重ねていったり、心の機微を探りながら表現してきたと思います。それらの体験を宝物みたいにそっと入れるように、思い出の箱としても大事にしまっておいてくれると嬉しいです」
当日ROOM302に来たメンバーは、思い思いにその箱に展示物の手触りをしまう。来られなかったメンバーには、他のメンバーやナビゲーターが代わりに、手触り、におい、それぞれの感覚を詰めていった。
この日がスタディの実施日としては最終日だった。しかし、その後も、メンバーそれぞれがこのスタディで見つけた種は、育まれているようだ。
「ナビゲーターのみんなから箱が届いたようである。ポストに入らなかったようで不在票が入っていた。何かに応えたいな。答えではなく、応え。アンサーではなく、レスポンスしたい。どこからどこまでが、箱の中身なんだろう。透明で、外から箱の中身を見ることはいくらでもできる。でも、確かにそこに形はある。輪郭がある。いつの間に、その外側にいるのだろうか。それともまだ、その中身にいるのだろうか。その箱を開いた瞬間、世界がパッと透明になって、内側も外側もなくなるのかも。特別だったあの空気が、今まで普通だと思っていた空気に溶けていく気がする。スタディのメンバーと関わっていたやり方が、普段の人との関わり方にも影響している感じがある。いつの間にか、スタディで見つけた自分、スタディで呼ばれる「大塚くん」が自分の自然な姿であるようにおもえる。そこにいた自分を、あの場所だけの特別な自分にしたくない。したくないと思って、しないようにできるものではないけれど、なんとなく何かを握ったまま、すごしたい」
「—————いや、まだたどり着いていないかもしれない。ただ、一つだけわかったことは、コミュニケーションのあり方は一つだけではなく、たくさんあって、自分で選択してもいいということ。ほら、何か背負っていたものが、はがれ落ちたでしょう」(展示会パンフレットより)
Text=木村和博