2020.2.2 (日)

クリエイション

場所:都内各地の工事現場、日本大学理工学部など

“形式”を重ねてアイデアを作品に

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記録係の堀切梨奈子です。全10回のスタディと報告会を終えたスタディ2。3月1日の試演会に向けたクリエイションが2月に行われました。

まずはナビゲーターとスタディメンバーが個別面談を繰り返し行い、スタディの振り返り。いま作品をつくるとしたらどんなことをやってみたいか、それぞれのアイデアをヒアリングしました。さらに、アイデアを作品にしていくきっかけとして、ナビゲーターからはさまざまなジャンルと角度から“形式”が投げかけられました。

例えば、「工事をリサーチするなかで得た時間の感覚を表現してみたい」という鈴木のアイデアに対しては、「工事を観察するという行為が、普段は足を止めないところで立ち止まる『お散歩系テレビ番組』に似ているのでは」という形式の投げかけ。試演会本番に記録映像を担当してくれる冨田了平さんにも協力してもらいながら、鈴木が工事現場を巡る様子をお散歩系テレビ番組風に仕上げてみることになりました。とはいえ一口にお散歩番組といっても色々なものがありますし、今回のアウトプットの場は画面の向こうに視聴者がいる『テレビ番組』ではなく、お客さんが目の前にいる『上演』です。お散歩の始め方、どんなところに立ち止まるのか、どんな風にまちと絡むか、お散歩する人のキャラクター性、ナレーションの有無……。いろいろな視点から“形式”の研究を重ね、試演会という場で表現する方法を模索していきました。
「寝ている間にまちが工事でアップデートされているような短編物語を書きたい」という藤城のアイデアには「限られた時間の中で映画をつくるために『写真とアフレコで物語が展開していくCM』の手法を使うのはどうか。世界観としてはヒーローものやSF・ミステリーものの『テレビドラマ』を参考にできないか」。「工事のかっこいい写真を撮っている」という壁井には「みんなに写真を見てもらう口実として写真を『BINGOゲームの賞品』にするのはどうか」などなど。
既存のなにかの“形式”を組み合わせて作品づくりの手がかりにすることで、アイデアはより具体的になり、作品づくりのための手法が検討しやすくなっていったように思います。

また、“形式”によってイメージが共有されやすくなり、それぞれのアイデアにほかのメンバーも関わりながら、みんなで作品をつくる状況も生まれていきました。
例えば、「自分の日常と工事を重ね合わせることで公共を考える物語を書き、パフォーマンスとして上演したい」というアイデアを元に『公共を考えるCM』という形式を得た成澤は、「工事からインスピレーションを得たダンスをみんなで踊りたい」というアイデアを元に『ボリウッド』の形式をもった清田と共同して、最終的にはスタディメンバー、ナビゲーター、スタディマネージャー全員が出演者として参加するパフォーマンス作品をつくることになりました。

ほかにも、酒井からは「1964年のオリンピックのための工事で、東京の公共は著しく発展した。公共を考えながら2020年の東京オリンピックを待つ『アドベントカレンダー』をつくりたい」、松野からは「工事現場の写真に空想の物語をつけていき『美術館のギャラリーツアー』のように紹介したい」など、形式も含むアイデアも出てきました。また、碓氷のアイデアは「試演会当日に行われる東京マラソンの一般参加が中止になったことを今回の作品に絡め、自身が実際に東京を走って試演会の会場を目指したい。走った後の疲弊状態の身体でパフォーマンスすることで、東京という都市の集中できない感じを表現したり、まちを走ることでデモや公共について考えたい」というものでした。
作品づくりのための着眼点や最終的なアウトプットはひとそれぞれに異なりますが、いずれも、このスタディで『東京』『公共』『彫刻』『パフォーマンス』『工事』などについて思考してきた時間があることを感じさせます。

各自のアイデアを作品にすることと並行し、それぞれの作品をどうやってひとつの上演にまとめるのかという、試演会の全体構成についての検討も行われました。誰かのアイデアを大きな一つの作品としてコラージュしていくのか、それとも、連続する短編番組のようにつなぎ合わせていくのか。
全体像を考えるために制作中のそれぞれの作品を捉え直してみると「工事を見る、という行為そのものを作品化したもの」「工事を見ることが公共を考えることやパフォーマンスにつながる、という気づきを取り上げたもの」「工事を題材にした二次創作のようなもの」「工事自体がすでに面白いものとして位置付けた上で、その面白さを共有するもの」などがあることがわかり、それらをどんなパッケージで上演していくことが試演会で有効なのかを考えました。最終的には、ラジオの公開集録仕立てとして、居間 theaterが全体を進行し、それぞれの作品をミニコーナーとして登場させることに。どうやら、上演の順番も重要になりそうです。

本番の3日前からは小屋入りし、実際の会場での作業と稽古。客席の位置を決めたり、立ち位置や入れ替わりの練習、音や光などの環境づくり、映像の最終調整など、準備は本番直前までつづきました。

Text=堀切梨奈子