2020.10.18 (日)
第3回
場所:アーツカウンシル東京会議室
空想地図をつくりながらつかむ都市のリアリティ
いよいよゲストを招いてのワークショップがスタート。ゲストには、このスタディの前提(ミュンスター・スカルプチャー・プロジェクトは10年おきの開催であることで作品の時代性が見えてくること。近年のミュンスター・スカルプチャー・プロジェクトにはパフォーマンスも出展されており、広義のスカルプチャーにパフォーマンスが含まれてきていること。このスタディでは、東京という場所でパフォーマンスとスカルプチャーについて考えていること)を共有した上で「トーキョー・スカルプチャー・プロジェクトという芸術祭の出展作品をつくる」という設定のワークショップを考えてもらっているそうです。
今回のゲストは空想地図作家の今和泉隆行(通称:地理人)さん。地理人さんのつくる『空想地図』は、実在しそうだけれど実在しない都市(=空想都市)の地図。実在しない都市ではあるものの、路線図やコンビニのロゴなど細部まで表現されており、実在する都市の地図と見分けがつかないほど。レクチャーでは「空想地図には事実(=本物の暮らし)が存在しないから、地図を見ながらその都市での暮らしを空想することが捗るらしい」ことや、地理人さんにとって空想地図を描くことは、地図で都市を表現することで「おままごとやごっこ遊びのように、身近な出来事やモチーフを馴染みある手段で表現することに近い」こと。また、それは「あえて自分で再現することで何かを掴もうとしているのだと思う」ことなど、空想地図をきっかけに生じる、空想する、なぞる、再現する、といったキーワードが印象深いお話を伺いました。また、地理人さんは実際に訪れる都市を住民視点でめぐるため「まずは中心地から離れた住宅街に足を運び、そこから中心地へ向かって移動する」そうで、それもまた住民の行動をなぞるごっこ遊びのようにも感じました。
レクチャーの後にメンバーが取り組んだワークショップは空想地図づくり。同じ縮尺で印刷された個性の異なる東京のまち(渋谷、新宿、清澄白河など)の地図模様を素材にして、A5サイズの台紙の上に思い思いの空想地図をつくります。独自の幾何学的なルールを元に地図模様を並べた人、理想の都市像やストーリーを持って空想都市をつくった人、ひとつのまちだけを素材に再構成した人など、様々な手つきからつくられた空想地図。地理人さんはそれらを眺めながら「この交差点は複数の文化が接するので、いい飲食店があるはず」「ここはお堀に囲まれた城跡を中心としたまちで、街区が大きいところは武家屋敷跡なのでは」「まっすぐ歩くという概念が揺らぐまちだ」など、地図から都市の分析をします。また、同時に地理人さんは空想地図の作者を”住民の方”と呼びながら、”住民の方”が空想地図をつくる過程でイメージした都市の特徴や出来事を聞き出していきます。それらのやりとりを聞いていると、”住民の方”でなくても、地図から都市を読み解くことが得意でなくても、そこでの暮らしをリアリティを持ってイメージできるように感じました。
さいごは全員でひとつの空想地図を眺めながら、その都市で開催される芸術祭を空想。「芸術祭をやるなら、本拠地の美術館がほしい」「本拠地は美術館でなく、すみだ向島EXPO 2020の小倉屋のような場所でもよいのでは」と拠点を探してみたり、「巨大な公園には恒常的に公共彫刻が設置されているのではないか」「街路が細いから、芸術祭をめぐるのは自転車がよいかも」「過疎もないし、人もたくさん住んでいるこのまちで、芸術祭をやる意味はなんだろう」「駅前の公園には路上生活者が多そうだから、ここでアートをすることは路上生活者の排除だといわれそうでもあるし、それを逆手にとって、その状況に一石を投じるパフォーマンスもできそう」「この大きな公園は火力発電所の跡地で、周辺に住んでいる高齢者は、そこで働いていた人たちかもしれない。過去を知らない人たちに当時のことを伝えるために、いま、ここで芸術祭をやる必要がある」など、歴史、街区、場所の特徴を空想地図から捉え、作品の形式、鑑賞者の振る舞い方、鑑賞ルートなどの空想を重ねていきます。
また、別の空想地図に対しては「中心を通る大きな道路が開通していないのは立ち退きが終わっていないからだろうか」「開通していないからこそ、ここを会場にできるのでは」「水路と陸路をどう使い分けるのかが芸術祭の要になりそうだ」など、まちの特性によって芸術祭を開催する際の着眼点が異なることにも気づかされます。
最後に地理人さんが「あえて地図で都市を見たときに、目線で見えていることの周りや特徴が地図から見えてくる」という言葉で1日を締めくくったように、今回空想地図をきっかけにめぐらせた思考は、実在する都市にも応用できるものかもしれません。一方で、あえて「トーキョー・スカルプチャー・プロジェクトの出展作品をつくる」というワークショップの前提に立ち返ってみると、今日つくられた作品は、1枚1枚の空想地図なのか、空想地図をきっかけにリアリティのある都市を立ち上げていく地理人さんと”住民の方”のやりとりなのか、はたまた、空想都市の中で開催されることを空想した空想芸術祭なのか。色々な切り取り方ができるように思えます。
次回は1週間後、ダンサー・振付家・演出家のトチアキタイヨウさんを招いてのワークショップです。
Text=堀切梨奈子
Photo=冨田了平