2021.3.8 (月) 〜 3.20 (土)

郵送上演

『パフォーマンス検査(キット)』

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ここでは『パフォーマンス検査(キット)』として12回にわたり郵送上演された作品を、制作者であるスタディ2メンバーのテキストとともにご紹介します。

『あなたの瞳検査キット』
成澤茉由

このキットは、会うことができないあなた(鑑賞者)と私(作家)の、時間をかけ場所を超えた、アイコンタクトの試みです。
COVID-19 の影響で、もはや当たり前となったマスクをした人とのコミュニケーションや、オンラインのビデオ会議などの画面越しのやり取りの中で、瞳を見る・見られることの重要性に気づかされた経験から、アイコンタクトを題材として制作をしました。
検査は3 ステップで、①測定 ②問診 ③模写 の手順で進め、記入シートは返送していただきます。
丁寧に瞳を観察してみる過程で、自分の瞳は何かにうつさなければ自分の目で見ることができないことに気づいたり、自分の瞳のことを知ったことで少しでも愛着を持っていただければ幸いです。

鑑賞者は、検査シートと付属の定規を使い、鏡を見ながら自分の瞳を計測する。細かなサイズを測ったのち、瞳に関する問いに答え、原寸大の瞳のサイズを絵に描き返送する。

『PRESSURE』
サカイナナセ

私はいつもプレッシャーを受けています。
相手が望む発言や行動を、強いられている気がするのです。
先生に褒められる返事をしなくっちゃ。
親を安心させる選択をしなくっちゃ。
友達に好かれる共感をしなくっちゃ。
異性にモテる行動をしなくっちゃ。
なんだかもう、誰と何を話をしていてもプレッシャーです。
本当は何も強いられてなんかない、って分かっているんですけどね。
でも、どうしても感じてしまうのです。
表情から。言葉から。目付きから。仕草から。息遣いから。
ドアの閉め方から。食べ物の食べ方から。階段を登る時の音から。小銭の渡し方から。LINE の一文から。
毎日毎日、締め付けられて、ぺしゃんこにされて、叩きつけられて、潰されているような気分で生きています。

箱に入った潰された缶と QR コードが送られてくる。QR コードからは缶を潰す動画が視聴でき、また他の缶が潰される動画(40種類)も見ることができる。

『音を言葉に翻訳する』
柏原瑚子

普段は鬱陶しくも苛立たしくも思うほどに騒がしかった町が急に静かになると、落ち着いた時間が戻ってくると同時に私は恐怖感を抱きました。心臓の鼓動、声、動作から鳴る音など、生物は生きている限り音を出し続けるように思います。
そんな中で音がなくなるというのは、私にとって無の世界を示唆するものであり、音の存在がどれほど貴重で幸せなことか改めて気付かされたように感じます。
生活の中で聴覚に意識をおくと、同じ体験の中に反復性やテンポを見出し、新しい視点から世界をみる楽しさを覚えました。
今までに聞いた音を言葉に翻訳した時、読み手はその音を聞くことができるのか、そんな作品です。

手紙サイズの封筒に入ったポストカード一式。言葉が書かれたカードと、空白のカードによって構成されている。

『とびら』
ふじたまい

「検査」というテーマが発表されたとき、このワードから連想するものを考えてみました。2020 年12 月でしたから「PCR検査」「コロナ」「陰性・陽性」という言葉が浮かび、「検査」って私の中ではネガティブなイメージがあるなぁと感じました。ネガティブに感じたことを作品にしようとは思わなかったので、「私は作品を通じて何を伝えたいか?」ということを考えたら、「過去や未来のあれこれに囚われず、今この瞬間を全力で楽しもう!」を伝えたいと浮かんできました。
食事をしていても仕事のことを考えていたり、家族と話しながら心は上の空だったり、、「今この瞬間にありながら頭の中は過去や未来のことを考えていることが多いなぁ」と思い、「よし!今この瞬間に生きることを意識する作品を作ろう」そうして誕生したのがこの「みっつめ能力開発キット」です。
商品を販売するためのサンプルを検査してもらい、その中で被験者の「みっつめ能力」も検査してしまう、空想の中にリアルもあるパフォーマンス作品です。

箱に入ったタイルと説明書が送られてくる。鑑賞者はそのタイルを使い、動画でのアナウンスを参照しながら、一連の検査をおこなう。

『あなたへのエントリーシート』
野口萌々音

私は大学生で、就職活動をしています。就活というものは人生の中で一番大きな検査ではないでしょうか。自分の経歴を好き勝手に検査されている、というのが私が就活に抱いた印象です。
しかし、このスタディを通して私が考えていたのは人によって価値観の幅が異なる、その境目はどこなのか、ということです。
就活という検査は人生における大きな検査にもかかわらず、価値観の異なる人にあやふやな基準で検査される、というものです。
これに違和感を感じ、この作品になりました。皆様にも人生を検査する、される側の違和感を感じて頂ければと思います。

3枚の「エントリーシート」が送られてくる。鑑賞者はエントリーしている3名のうち「どの人とともに働くか」を選び返送する。

『SAMPLE M』
小野美幸

ソーシャルディスタンスによって孤独を感じる中、誰からも興味関心を持たれることなく、ただ毎日をやり過ごしている。
この作品のテーマは、そんな毎日の中で「私もここにいます」と、この世のどこかにいる知らない誰かに「はい!」と手を挙げる気持ちを表現すること。
その手段として選んだのが「手作りのZine という形でどこの誰とも知らない相手に、自分の身体や生活の一部(検体)を一方的に送る」という方法です。Zine は、送付先1冊ごとに違う作りにし、母子手帳・レシート・歯型…など、その人にとっては何の役にもたたない私の「情報」を散りばめました。「私」という人間の手が動いた残像の一部を受け取ってもらえたらうれしいです。

Ziploc(保存用プラスチックバッグ)に入ったZine(小冊子)が送られてくる。紙面は写真、テキストのほか、香り、物体(歯形)など複数の素材で構成されている。

『scitsitats』
齋藤千春

今日の都感染者数は239 人。昨日は330 人だった。前日との± で表される数字は一人一人の集合でできている。今日の一人は昨日とは違う一人であって、それぞれが異なる感情を伴っているはずだ。しかし感情は排され知らない街の気温の様に重みを失った数字だけが上下している。
思えば、毎年の自殺者数が発表される度に同じことを感じていた。
最近、買い物をするときはトレイにお金を乗せてやり取りするようになり、外食よりもテイクアウトを選ぶようになった。
人の相貌を見る機会や、歩行喫煙を目にすることも少なくなった。遠出しなくなり使わなくなった鞄が部屋の隅で埃を被っている。
生活様式の変化とか、衛生や対面に対する意識ばかり考えて、あの人はどんな人だろうと思う時間が減っていた。
「貴方は一人ではない」使い古された台詞も肯定的に使われるのではない。只の数字の裏にも生きている・生きていた人がいるのだと思い馳せることができれば。

「検査キット」という熨がついた箱の中には、複数の物品が入っている。鑑賞者は検査指示書にしたがって小さな検査をひとつひとつこなしたのち、返送する。(のち、その検査キットは再び鑑賞者のもとに返送される)。

『けんさ、どこへいく』
松野麗

2020 以降、私たちは出かけた場所で体温検査をあたりまえのように受ける世界に暮らすようになりました。
「私は平熱で、コロナにかかっていません。」と証明するためです。
しかし、ふと考えてみると、「けんさ」がどこか別のところへと転用していく世界もありうるかもしれません。
その世界での転用は「誰か」のためになる「ちょっと良い」転用か、あるいは「誰か」が「あなた」になってしまう「ちょっと悪い」転用かもしれません。
「けんさ」が転用される世界が「わくわくする」と感じるのか、「ぞわぞわする」と感じるのか。
このキットでは「けんさ」が「誰か」の「何か」へと転用していく世界を体感していただきます。

質問事項が書かれた検査シート。質問は全てひらがなで書かれている。鑑賞者もひらがな・カタカナで質問に答え返送する(のち、鑑賞者のもとには返事が送られる)。

『On or De-performance kit』
内堀律子

検査、2020年の終わりごろからこの言葉をとっかかりに創作をすることになりました。
今まで出会うこともなかった方々と考えてもこなかったことを経験し、その度ごとになにかを作ってきた今回のWS。
ただ、出来上がるものはいつも自分の中にあるもので、まったく新しくはありませんでした。そんなワンパターンな自分にイライラしながらも、最終的にはそれを受け入れ向き合ってみることにしました。
―――
人とひとがいて、そんなヒトとの間にあるナニカはダレが作っているのか、なにからウまれてドウ変化するのか。
―――
こちらのキットはひとりでもできる、というより、ひとりでしかできない、こともないですが、圧倒的にひとり向きです。
難しく考えずに、Take it easy!!

戯曲(テキスト)と上演をおこなうためのキットが郵送されてくる。鑑賞者はキット内の紙を「人」に見立てて、自分で戯曲をなぞって上演を進めていく。

『MOTS-10』
藤城滉俊

例えば、内視鏡検査を受けるには、血液検査から食事を制限したり、身体の中を空にしたりと、「検査のための検査」や「検査のための準備」をたくさんしないといけない時があります。
私が初めて内視鏡検査を受けた時、その検査が行われるまでの過程は全てクエスチョンマークでした。
この体験から着想を得て、私の作品では、皆様にある一つの検査に向けた準備をしていただこうと考えました。その検査は、皆様の検査ではありません。私の検査なのです。
今回、9 つの作品( の入れ物) に寄生する形で準備の段階を踏んでいただくことにしました。皆さんは見落とさずに全てのQR コードを読み取れましたか? そして今後とも、ミオトシくんをどうぞよろしくお願いいたします。

「パフォーマンス検査(キット)」の郵送物のなかにQRコードが隠れている。QRコードを読みこむとWEBサイト上で短い連載(全10回)を読むことができる。途中、連載と連動して小さなシール、キーホルダーも郵送されてくる。

最後に『パフォーマンス検査(キット)』の終わり(12通目)に送られたナビゲーター 居間 theaterの手紙を一部抜粋し、ご紹介します。

「パフォーマンス検査(キット)」は、東京プロジェクトスタディ スタディ2「トーキョー・スカルプチャー・プロジェクト ー 2027年ミュンスターへの旅」内の活動の一貫としておこなわれました。このスタディは「ミュンスター彫刻プロジェクト」というドイツで10年に1度おこなわれている芸術祭を参照しながら、「スカルプチャー」や「パフォーマンス」というキーワードを据えて 2018年から始まっています。
2020年度はワークショップベースで「つくることをやってみるスタディ」としてスタート。4名のゲストアーティスト(今和泉隆行さん、トチアキタイヨウさん、大和田俊さん、友政麻理子さん)には実際に何かを体験してみる時間・手を動かす作業の時間を含めたワークを考えていただき、小さいながらも「何かつくってみる」という一連のワークショップをそれぞれおこなっていただきました。

以上のような経緯を経て、この成果発表会「パフォーマンス検査(キット)」にたどり着いています。
郵送されてくるさまざまなモノ。それらのなかには、行為を促す指示書のようなものやゲームのようなものもあれば、冊子、空き缶、鑑賞者に参加してもらうものまで。
一連の郵送は、「検査」という名のもとにおこなわれました。いわゆる検査らしいものから、これも検査と呼べるかも、というものまで。「検査」というフィクションがある期間、ある集団によって「郵送」でおこなわれる「プロジェクト」でした。

「パフォーマンス検査(キット)」を進めるなかで、ひとつ感じたことがあります。
個々がアイディアを出してナビゲーターと検討し、ブラッシュアップしたり一度アイディアを捨てたりしながら、実際にそれぞれが、ひとりで手を動かしてつくりました。
動かした結果、紛れもなくそれぞれが「つくった」という事実になりました。
当たり前のことではありますが、しかしながら、非接触・非対面が推奨され、ひとりでつくることに向き合わなければいけないという状況下において、その作業はとても難しく、そして重要なことである気がしてなりません。そうやってさまざまなモノ・コトはできているのだと、改めて実感します。

最初のお手紙で記載したとおり、検査をする/される、そして、郵送する(送る)/される(送られる)というふたつの存在があって、 この一連の作品は完成しました。
みなさまのご参加に感謝申し上げます。

以下の関連資料から、スタディメンバーの作品写真や手紙の全文が掲載された図録のデータがご覧になれます。

Text=スタディ2メンバー一同
Photo=冨田了平、高岡弘