2021.4.17 (土)
振り返り回
場所:ROOM302(3331 Arts Chiyoda)
上演時間をつなぎあわせるような最後の振り返り
『パフォーマンス検査(キット)』の本番が終わり1ヶ月ほど経過したこの日、スタディメンバーは3331 Arts Chiyoda ROOM302に集合し、『パフォーマンス検査(キット)』のクリエイションと本番の振り返り回を行いました。
『パフォーマンス検査(キット)』は2週間に渡って手紙や小包など合計12の郵送物がお客さんの元へ届くという、非対面・非接触での成果発表会。スタディメンバーとナビゲーターによるクリエイションもオンラインツール(Zoom、Slack、LINE)を使ったコミュニケーションをベースに行い、本番は、スタディメンバーがそれぞれにつくったモノをナビゲーターがお客さんの元へ発送するという流れで行われました。
また、一般のお客さんと同様に、スタディメンバーの元にも『パフォーマンス検査(キット)』は届けられています。
そのため今回の振り返り回では、スタディメンバーそれぞれが制作物をつくる作者として考えた「非対面の本番になったけど、どうしても“上演”を郵送で立ち上げたいと思い、戯曲を送ることにした」
「モノだけを送ろうと思っていたけど、言葉をつけたほうがより伝わると思い、ステートメントも同封した」
「お客さんから返送してもらったモノを観察したり、文字をなぞったりして、相手を想像している」といったことや、郵送物を受け取ったお客さんとして「封筒の内側に隠れるように貼ってあるQRコードは見られなくていいと思っている潔さを感じた」
「潰れた缶が届いたとき、個人の存在みたいなものを強く感じた」
「最後に届いたカタログは、エンドロールみたいだった」といったエピソードなど、作者とお客さんの両方の立場からの思考や出来事を共有しました。また、数名のメンバーが撮影していた開封動画からは、それぞれが全く異なる空間と時間感覚で『パフォーマンス検査(キット)』を体験していたことを伺い知ることができます。
全ての制作物をお客さんへ発送した(=作品とお客さんの出会い方を設計した)居間 theaterからは「レターパックの内容物欄に検査キットと書いたら、郵便局の窓口でひっかかってしまったけど、アートなんです、と説明したらすんなり送ることができた」「郵送可能な最小サイズに挑戦した」などの郵送という手段特有の苦労話や、
「送る順番は、お客さんが検査を体験しやすくなるように考えた」
「今回はお客さんが受け取る場所やタイミングなどの時間をコントロールすることができなかったけど、ひとつひとつの制作物が完結していたので、それを許容できる側面もあった」
「全体としての流れをつくるため全ての郵送物の外装に、ひとつひとつの中身を連想させるデザインのステッカーを貼った」
「全ての制作物にキャプションを同封することも考えたけれど、言葉を添えた方がよいモノとそうでないモノがあって、最後にまとめてカタログを送ることにした」など、全体のディレクションについてのエピソードも。
そんな風に、スタディメンバーやナビゲータが異なる立場や時間で思考したことや体験したことをきいていると、それぞれが過ごしたクリエイションの日々や、上演時間をつなぎあわせているようにも感じられました。
最後に居間 theaterの稲継から「想定していたことができない状況でなければ選ばなかった“郵送”という手段が、実は今、切実な問題なのかもしれないと思いました。普段、自宅に送られてくるものは、自分が消費したくて得たものばかりだけれど、今回は注文していない(消費しようとしていない)作品が送られてくるということに、消費するものと作品の違いがあると感じました。」
「結果的に、現在の、特に東京のコロナ禍で、それぞれの実感をもとに創作されたという“トーキョー”の要素、モノとしての作品を考える“スカルプチャー”の要素、そして複数人で郵送という形式に挑戦する“プロジェクト”という意味で、『トーキョー・スカルプチャー・プロジェクト』が強くあらわれた作品になったと思います」との気づきが投げかけられ、最後の振り返り回を終えました。
スタディ2は2018〜2020年度の3年間、「2027年のミュンスター彫刻プロジェクトへの招聘を目指す」という大きなテーマをきっかけとして、東京を舞台に、パフォーマンス、彫刻、公共、つくることやプロジェクトについて領域横断的に思考を巡らせ、手を動かしてきました。そして今回は“つくる”ということを振り返り、スタディでの経験を改めて共有した一同。このスタディの3年間の歩みは、今後、ひとつの冊子にまとめられる予定です。
東京プロジェクトスタディとしての『トーキョー・スカルプチャー・プロジェクト』はこれにて幕を閉じました。
Text=堀切梨奈子
Photo=冨田了平