2020.9.5 (土)

第2回

場所:Zoom

「移民を取り巻く構造を現場から学ぶ」

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冒頭、海老原さんは移民について考える際に意識してほしいこととして、「答えを自分なりに考える」「間違いを恐れない」「わからないを自ら解消する」という3点を強調。「私は、正解もわからないなかで移民の若者たちと過ごしてきました」と、萎縮せずに対話する大切さを語った。

「難民」「移民」の定義などの解説に続き、海老原さんは、「移民とは」を考える際の重要なポイントとして、それぞれの多様性を指摘。

「移民と一口にいっても、さまざまな背景や、アイデンティティがあり、単純には理解し得ない」として、「国籍や文化、言葉などにはいろいろな要素がある。これらは一面的なものではなく、ルービックキューブみたいに混ぜられる複合的なもの。人によっても違っている」と話した。

アイデンティティは「変容していくもの」で「どれが日本人、どれが移民という正解はない。あくまでも私のスタンスとしては、ともに社会をつくる市民という発想でとらえている」として、「私が移民とはこういうものと伝えるよりも、今日のレクチャーを、皆さんが考えるきっかけにして」と呼び掛けた。

海老原さんが代表理事を務めるkuriyaでは、中学生のときに来日し、公立高校に通う、経済的・社会的には困難な立場にある子供たちを対象にキャリア教育や居場所づくりなどを行っている。

また、日本語指導が必要な外国籍等高校生は日本人と比べて中退率が7倍高く、進学率は6割程度、進路が定まらないまま卒業する割合も9倍だという。

10年以上にわたる支援経験から、海老原さんは「高校に通う外国人の子供たちに対する社会の支援が手薄である」と指摘。

「子供たちが抱える困難のうち、わかりやすいのは『日本語ができなくて勉強についていけない』というもの。だがそれだけでなく、在留資格や文化の違いや家庭状況、差別など複合的な理由があり、卒業後の進路が決まらないなどの課題がある」

「彼らが言うのは『相談できる人がいない』ということ。友だちができない上に、親は日本語がわからず頼ることができない。そうした孤立の問題がある。彼らを支える仕組みが社会に不足している」と話した。

ここでレクチャー1は終了。3つのテーブルに分かれ、海老原さんの話から得た新たな気づきや疑問を共有し合った。

「経済的困難が大きな課題で、それを支える仕組みが不足しているというのは、移民だけじゃなくて日本全体の話なのでは」「(進路未決定の子供たちは)学校から社会に出るまでに、誰かに進路を相談できていたのだろうか」など、移民を取り巻く社会に対する疑問の声や、「海老原さんがどうやって移民の子供たちに出会っているのか知りたい」といった声も聞かれた。

議論の内容を全員で共有後、レクチャー2がスタート。まず海老原さんが移民の若者との活動に取り組むに至った経験を説明した。

親の仕事の転勤によってイギリスに移住したものの、英語が話せず友だちができなかった海老原さんだが、絵が好きという共通の趣味を持つ友だちを得て以降は「生活が楽しくなり、言語も上達した」と回顧。この経験から、周囲とつながるきっかけを持つ重要性を感じ、アートを一つの切り口とした活動を始めたという。

また移民の子供たちとは、地域のコミュニティで出会うなどしながら「泥臭く」つながりを構築していったと紹介。

これまで意識してきたこととして、「例えば『中国ルーツの子』と言ってもみんな家庭環境や性格などが違う。だから彼らの話を『ひとりひとりの物語』として聞かせてもらった」と語り、「一個人」として接する重要性を述べた。

レクチャー2を終えてのテーブルディスカッションでは、「外国ルーツや移民と呼ばれる人たちとどんなことをやってみたいか」をテーマに話し合い、その後、全員がひとりずつ自らのアイディアを話した。

「自身の失恋体験に関する物品などを、本人の解説付きで展示する『失恋博物館』をつくりたい。異なるバックグラウンドを持った人に出展してもらい、展示を通じて、根本はわたしたちと同じなんだとわかるような」

「来年春に、誰でも参加できるポエトリーリーディング(詩の朗読会)とラップのイベントを行う予定なので、そこに招待したい」

「外国人が日本人を演じて、日本人が外国人を演じるような演劇ワークショップをやってみたい」など、幅広いアイディアが共有された。

発表を聞いた海老原さんは「2回目のディスカッションの『どんなことをやってみたいか』という質問は、無茶振りだと思いながら設定させてもらったが、これだけいろいろなアイディアが出てくるとは」と驚き。

ただ「何かやらなきゃいけないと負い目に感じる必要はない」とも強調し、「自分が活動を続けてこられたのは、なんだかんだ楽しかったから。だから気軽でいいと思う」と、自然体で取り組む大切さも伝えて締め括った。

この日のレクチャーでこれまでの疑問がすべて消えた、という参加者はいないかもしれない。むしろ疑問が増えたという人もいるだろう。だが、新たな疑問は、新たな進むべき道しるべにもなりうる。

スタディを終え、ナビゲーターの阿部航太はポツリと漏らした。

「前進したのか、迷路に迷い込んだのかわからないが、意味のある3時間だった」

Text=鷲見洋之