2021.1.9 (土)
第9回
場所:Zoom
原点に立ち返り、本制作への助走を開始
2021年最初のスタディのこの日は、各メンバーがトライアル作品の制作を経た今、改めてスタディの成果物としてどんなことに取り組みたいのか、取り組む上での課題や悩み、スケジュール感などをナビゲーターの阿部航太と運営メンバーに共有し、共に方向性を探る面談を行った。
面談に先立ち、阿部以外の運営メンバー3人からそれぞれ20分のメディア制作に関する簡単なレクチャーを実施した。
3人は、普段は不動産情報サイトで広告制作ディレクターを務める原堯と、アーツカウンシル東京プログラムオフィサーでスタディマネージャーの上地里佳、フリーライターの小子、鷲見洋之。
いずれもメディアとの関わりが深い仕事をしていることから、経験をもとに、それぞれ「ウェブ」「イベント」「紙媒体」について解説。
「ノリや感覚ではなく、誰に何をどう伝えるかを真剣に考えることが大切」「イベントを行うには、『企画』『人』『お金』『時間』の4点セットで骨組みをつくり、準備を進めましょう」などと、プロジェクトを進める上でのポイントなどを話した。
面談では、メンバーが阿部とのディスカッションを通じ、それぞれのプロジェクトのテーマや目的、コンテンツを届けたい対象などの基本的構成を再考。改めて根本のテーマ自体を探り直す人もいれば、一歩進んで技術的な課題克服に向けた助言を請う人もいた。
トライアルで、香港情勢をめぐる自身の内省と、香港人のパートナーを持つ友人への取材をもとにテキストベースの作品をつくった宇都木大樹は、今後も方向性は変えず、海外にまつわる問題を身の回りの人に話してもらい、自分の行動変容などと絡めて作品にする取り組みを続けたいと説明。トライアルでは、「イシュー(香港における民主化要求デモ)がなぜ起きているのかという事実性を拾えなかった」として、「次は、客観的な語りも入れたい」とした。
取材を重ねて最終的にはZINEのような形態にまとめることを想定しており、届ける相手については「僕と、インタビューの相手が届けられるような、身近な範囲の人に読んでもらいたいと思っています。センシティブな話題なので、最初から大風呂敷を広げるのではなく、リアクションを見ながら(渡していきたい)」と話した。
阿部から、センシティブなことをテーマにする理由を問われると、「トライアルをやってみて、自分が政治問題をしっかりわかっていないことや、香港情勢のようなセンシティブな問題への踏み込めなさに気がつきました。でも友人は丁寧に話してくれたし、『聞いてくれてすごく嬉しかった』とも言ってくれて、(友人の)周りの人にも(トライアル作品を)配ってくれていたらしい。だから、自分の踏み込めなさにチャレンジしたいです」と答えた。
また阿部からは、「個人的な表現物を、わざと間口を狭くして届けるのは一つの手だと思います。一方で、わかっている人に対して『わかっているよね』と言って終わり、となりかねない。それを超えられる時にメディアとして成立するのかなと思いますが、大樹さんの場合は、コミュニティ内でさえ共有できてなかったトピックをあえてコミュニケーションする、という意味合いなんでしょうか?」と確認。宇都木は、「そういうイメージです。(センシティブな情報をコミュニティ内で開示することについては)インタビュー相手の主語をぼやかしたりして工夫できるかなと」とイメージを語った。
また、国際交流団体で働く内海さくらは、日本人と外国出身者が散歩をするイベントを構想。
例えば日本に住む外国人をホストに、お香の店などを回りながら日本文化をガイドしてもらうなどし、「趣味を探している日本人や、日本文化を知りたい外国人が、いつもと違う視点から学べるようにしたい」と語った。
これに対し、運営スタッフで映像作家の森内康博は、「映像を考えたときに、主役が参加者ではなく、日本文化になってしまわないかと少し不安」とアドバイス。
内海も、現状の構想は、「海外ルーツ」や「日本文化」「まち歩き」「アイデンティティ」などさまざまな要素を詰め込んでいるとして、「今は欲張りみたいになっているので、もっと一つにフォーカスした方がわかりやすいかもしれないですね」と、アイディアを再考していた。
このように、この日の面談ではしばしば「なぜやるのか」という根本的な問いに立ち返り、ディスカッションを重ねて各プロジェクトの精度を高めた。
ただ、いくらレクチャーを聞いたり、助言を受けたりしても、不安なしに本制作に打ち込むのは難しい。例えば媒体を印刷するための費用や、発注の方法、イベント会場の押さえ方など疑問点は山積み、という状態のメンバーも多い。
そういうわけで、次回も面談を引き続き実施することになった。面談日を4日間設け、各日3人程度が阿部や運営メンバーらと議論を行う。
Text=鷲見洋之