2021.2.27 (土)
第11回
場所:Zoom
ゲストふたりが再登場、メンバーひとりひとりに送られた金言とは
2020年8月に始まったスタディも残すところ、あと2回となった。メンバーたちは目下、試行錯誤を続けながらもひとまずプロジェクトを何らかのかたちに残せるよう、活動を続けている。
だが探り探りの状態を続けていると、人は疲れてしまうもの。そこで第11回のこの日は、メンバーが新たな視座を見つけ、再び創作意欲を活性させられるよう、過去にゲストとして講師を務めてくれたふたりに再登場を願い、助言を仰ぐことにした。
まずは、ライターでエッセイストの金村詩恩さんが再訪。
メンバーがプロジェクトの進ちょくを共有しながら、直面している課題などを相談した。
スタディマネージャーでありながら、メンバーと共にメディア制作にも取り組む上地里佳は、年々外国人が増える足立区・竹の塚でフィールドワークをしつつ、どんなプロジェクトができそうか模索中。
区内のフィリピン料理店に通いつつ、「店主と仲良くなることを通して、自分のなかのハードルを顕在化できるのでは、という淡い期待を抱いている」状態だという。店に通いながらフィールドノートも書いているといい、金村さんに読んでもらった。
金村さんは読後、「このノートのメモはいつ書いていますか」と質問。上地は「基本はスマホのメモ機能を使いながら、紙でもメモしたり。相手に許可を得て録音もしています」と説明した。
すると金村さんは、自身はメモをとらない取材スタイルだと明かし、「メモをとると相手は身構える。なので、できればメモなしで、その場の状況を全部頭に突っ込んでいくみたいな(かたちで取材してみてはどうでしょうか)」と取材技法を紹介。
発言の正確性などがなおざりにならないかという懸念については、「歴史」と「記憶」の違いを挙げ、「記憶はすごく主観的。でも不思議な揺らぎを持っています。ここはよく覚えているけど、ここは覚えていないとか。であるが故に記憶は迫真性を持つんです」と語った。
また、上地のノートの中身については、「非常に歴史的な感じで、綺麗」と評価。
「すごく整理されているなと感じました。整理するということは、何かを切っている。何を切っているのか、もう一度考えると面白いかもしれない」と勧めた。
また「くっきり(整理して)書きすぎれば、その場の人が共有している感情や感覚などが捨てられちゃう。お店のお母さんがどう感じているかといったことを、もっと上地さんが身体で感じてもいいのではないでしょうか」とも。
上地は「今までは、その場の臨場感や、自分の迷いなどをさらけ出すのが怖いなと思っていました。でも私がつくるメディアでは、私の試行錯誤と、お店のお母さんへのインタビューという2つの構成で届けたいと考えています。なので自分の感情を出していくのは必要だなと思いました」と助言を噛みしめていた。
次にカムバックしてくれた講師は、映像人類学研究者の川瀬慈さん。
第6回でドキュメンタリー映像の類型に関する講義や、短編ムービーの制作ワークショップを通し、メディアがいかに構築されているかを教えてくれた。
台湾出身のメンバー・鄭禹晨(テイ・ウシン)は、自身のプロジェクトの経過を川瀬さんに共有、最終的にどんなかたちのメディアにすべきか相談した。
言語に興味がある鄭は、言語とその国の国民性の関係に注目。
適切な訳語が見つからないような表現を題材に、何かメディアにできないかと考えている。
「私は、日本の台湾人や中国人と話すとき、実は日本語と中国語を混ぜて話しています。例えば『イライラ』とか『ヤバい』という表現は、中国語に同じような簡単なことばはない。あと『木漏れ日』のように翻訳できないことばもあります。中国語だとすごい長い説明になってしまう」
こうした表現を、友人の協力も得ながらたくさんかき集めているが、「どうアウトプットするかすごく困っている」と吐露した。
川瀬さんは、「重要な問題提起だと思います」とし、「アウトプットと言っても、映像やテキストだけではなく、声や身体もメディアだと思うし、映画館での上映など、いろいろ場所もある」とさまざまな選択肢を紹介。
「例えば台湾のことばでは翻訳しにくい日本語の表現を、徹底的に台湾のことばで説明する。その際、写真や音などさまざまなメディアを駆使し、何らかのプレゼンテーションをしてみる、とか」
「逆に日本語に翻訳しづらい台湾のことばを、日本語で説明するのを試みたりしながら『言語の隙間』というか、言語がすべてをキャプチャーできないのが世界である、というようなところに持っていっても面白いのではないでしょうか」などと、いくつか具体的なイメージを提案した。
さらに鄭が、東京ミッドタウンで開催中の企画展「トランスレーションズ展 −『わかりあえなさ』をわかりあおう」にインスパイアされたことを伝えると、川瀬さんは「コピーはダメだけど、真似してみてもいい。自分で組み立て直して、言語をつくっちゃうっていうのもいいと思います」と後押し。鄭も少し吹っ切れた様子で「やってみます」と応えていた。
この日の総括で川瀬さんは、「皆さんが問題意識をしっかり持っていて、言うことないんじゃないかなと思います」と称えたうえで、紆余(うよ)曲折することを恐れてはいけないと強調。
「最初の計画通りにいかなかったり、取材対象にすっぽかされたり、そんなハプニングもウェルカムで対峙していくのがいいと思います」と激励のことばを送った。
Text=鷲見洋之