2021.9.22 (水)
第3回の続き
場所:Zoom
秋の夜長に「恋の定義」を考える
9月22日(水)の20時、第3回ワークショップの続きというかたちで、ことばの研究者で全盲の藤本昌宏さんを招いた意見交換会がオンラインで行われた。
引き続きテーマは「恋」。
カメラをオンにするかは自由とアナウンスされており、思い思いの場所やかたちで秋の夜長のセッションに参加した。
「恋の月は9月いっぱい続くので、前回のワークショップを踏まえた話や、話せなかったことをゆっくり話す時間にしたいなと思います」
ナビゲーターの和田がそう伝えると、ゆったりとした雰囲気で会は始まった。
まずナビゲーターの岡村が「恋というテーマにしたきっかけって?」と藤本さんに尋ねると、
「いくつかあるんですけど、一番大きいのはわたしが恋をしているからですかね。しているというか、悩んでいる時期があって」と、その背景を話し始めた。
藤本さんは、コロナ禍の最中にうまくいかなかった自身の恋について、どうしてうまくいかなかったのか考えていくうちに、そのひとが嫌いになったのではなく「恋が足らなかった」のではないかと思い至ったという。
また、「友人のひとりに対してよくわからない感情を抱いていて、これが足らなかった恋ではないかと。告白したもののそのひとは相手がいたのでダメだったんですけど、このことばにならない感情は何なのだろうとすごく気になっていました。それを和田さんと話していくうちに、愛ではなく恋をワークショップのテーマにすることで新しい視点が見えてくるんじゃないかと思いました」と話した。
「いまもダメだったひとに対して恋をしています。恋って、わたしのなかではふられちゃったから終わるものでもないとわかって。わかったからこそ恋って余計捉えられなくなって。それがおもしろいなと」
そんな話を受けて、岡村と和田は藤本さんにいろいろと質問をしていく。
岡村「恋だ、って気づく瞬間って?」
藤本「それをわたしも考えたい。わたしのなかでは楽しい・嬉しい・好きという気持ちだけでなく、寂しさ・悲しさ・もどかしさや違和感が恋という感情で。具体的には、好きなひとや対象と別れるときに妙な違和感を覚える。胸がぐっとなる感情が、わたしは恋を自覚する瞬間なのかなと」
岡村「恋をしている状態の自分は好きですか?」
藤本「あまり考えたことがないですね。でも、してるのはいいことだなと思います。人間だれしも何かには恋をしていると思うので、その時間を大切にすべく、こういう機会があるといいのかなと」
和田「一目惚れってする?」
藤本「あまり自覚的に一目惚れという経験はなくて、気づいたら好きだったということが多かったのかなと思います。もともと恋愛に興味がなかったと思ってたんですよね、でも先ほどのような状況になって。付き合うって何だろうとか考えたときに、わたしは気づかないうちに恋をしているのかもしれないと思ったんです。一目惚れについては、強いていうなら、全盲の方は慣れてないところ、山とかだとひとの腕や肩につかまって移動するのが基本なんですけど、つかませてもらっていると自分の手に相手の髪が当たったりして、そういうときに一目惚れするんだと思います。背の高さとか腕の感じ、夏なら皮膚に当たったり、あと匂いとか」
また、「食事にも一目惚れします。“一口惚れ”はするかもしれません。恋の対象は人間だけじゃないはず」と、ことばを添えた。
◆
その後、グループにわかれて「恋の定義」について話すことに。
定義といっても、恋とむすびつきそうなキーワードやエピソードでいい、と藤本さん。
Zoomのブレイクアウトルーム機能(参加者を複数の小部屋に割り振る機能)を用いてメンバーは3つのルームに割り振られ、30分間ほど思い思いの「恋の定義」やそこから浮かんだことを話し合った。
あっという間に時間が経ち再集合。
ルームごとにどんな話をしたのか共有する。
<ルーム1>(報告:山田)
「自分がかかわりたいという思いがあるけどつかめなかったり、届かないパターンと、遠くから見守る感覚で待つパターンがあるね、という話」
「波多野さんが、まとっている空気感やオーラを記憶にとどめるために絵を描くという話が印象的だった」
「体の状態、上半身や呼吸器がつまる感じがする。そこから、どうして恋に関する音はカ行につながるんだろう、という話」
など。
恋とカ行の親和性については「確かに!」と盛り上がり、藤本さんは「恋がカ行に近いからかも」と添えていた。
<ルーム2>(報告:伊藤)
「こうありたい。こうなりたいという欲求と関係しているんじゃないか。あるベクトルをもったものである、という話」
「木村さんから『どの部分を恋と呼びたいんだろう』という問いが出て、いい問いだと思った」
など。
また同じくルーム2の水野は、恋のモードを入れる・入れない、入る・入らないという話もあったと補足。すると、場は恋のモードの話に。
「開ける・閉める」「同じ開け閉めでも自分は窓の開け閉め」「ふたを開けるか閉めるか」「常に全開オープン、窓が開いていてもそれと関係ないくらい距離を取る」「風呂桶」「本のイメージ」などなど。
「そもそも恋もひとそれぞれで、同じ恋をイメージして話していない気がしていました」と大迫が述べると、藤本さんは「だからこそ、そこから見えてくる発見があるのかなと思っています」と答えた。
<ルーム3>(報告:二瓶)
二瓶は、話を聞きながら自分の恋のことを考えていたのでつまみぐいなのですがと前置きをした上で、
「恋を海に例えたひとがいた。楽しさと、底知れない恐ろしさ、ひとを殺しうる力、どちらも備わっているものとしての海」
「ぎゅ、の話。その音に対して苦しく感じる方もいれば、もっとポジティブな感じ方をしたり」
と報告。
一方で、大塚は自身の恋のイメージについて「妖精だなと思った」と話した。
加えてルーム3に参加していた岡村は、「恋がいなくなる瞬間を覚えていない」という話を紹介。
失恋と、恋がいなくなる瞬間の違いについて、話はしばらく盛り上がった。
気づくと終了時間の10分前。
最後に藤本さんは、9月の終わりに向けた課題として「恋の計画書」を書いてほしいという。
これまでは過去の恋を中心に話してきたが、これから、あるいは現在進行中の恋に対してどう接近するのか、どう向き合っていきたいのかをまとめてみることに。
対象物がひとつじゃない場合は対象別に計画書をつくってみてほしい、抽象的なものを対象にしてもいい、受け手側が音声読み上げで聞けるかたちでお願いしたいなど課題についての質疑応答を行い、この日は解散。
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提出締め切りの9月30日。Slackにはそれぞれの「恋の計画書」が投稿された。
対象も、手段も、表現の仕方もさまざま。「恋」という切り口でそれぞれが自己探求をしているようにも感じられた。
「恋を考える一ヶ月」に積み上げられた思考や手元に残った手触りは、これからの道のりにどのように響いていくのだろうか。
10月。スタディはまだまだ続く。
Text=阿部健一