2021.10.10 (日)
第4回
場所:ROOM302(3331 Arts Chiyoda)
触覚の世界に出会う/共に歩く
10月10日(日曜日)ROOM302(3331 Arts Chiyoda)にて。触覚デザイナー 田畑快仁さんをゲストに迎え第4回のワークショップを実施。テーマは「触覚によるコミュニケーション方法を探り、他者の身体的境界を超える感覚について体感する」。第一言語は手話、コミュニケーション手段は接近手話・触手話・指点字・筆談を用いる田畑さんの世界認識を共有してもらった。
「こんにちは、はじめまして、田畑快仁です」
田畑さんが手話で語り、通訳者・介助者の柴崎恵里子さんが音声日本語でメンバーに共有する。田畑さんの自己紹介から今回のワークがはじまった。
視覚と聴覚に障害がある「盲ろう者」であること。それゆえに「情報入手」「コミュニケーション」「移動」などにおいて困難があること。ひとくちに盲ろう者といっても、ひとそれぞれ症状や困難のかたちは違い、コミュニケーション手段もひとそれぞれなこと。自身は接近手話・触手話・指点字・筆談を用いていること。
田畑さんからの共有後、メンバーそれぞれも自己紹介をはじめる。名前、出身地、田畑さんとどう出会いたいか、という3つのお題を音声日本語で伝え、通訳者でありナビゲーターの和田が触手話(話し手が手話をあらわし、読み取り手が、その手に触れるかたちで伝える方法)で田畑さんに伝えていく。メンバーのなかには、田畑さんが座る椅子に近づき自己紹介をはじめるひともいた。
「何かを相手に伝えたいとき、自分は、どの場所から、どのように伝えるのか」を模索する時間に見えた。また自分や他者のことばが翻訳される瞬間、それに必要な時間を目の当たりにした。
自己紹介が終わると、田畑さんが自身の触覚体験について共有する。
「わたしはさまざまな体験から言語を獲得してきました。さまざまな場所に行って、触って、体験して、言語を獲得しました。海の場合には、砂浜の砂、貝、魚を触ってやわらかさなどを感じたり、山に行ったときには、木、緑、植物を触ったり。それぞれの概念を体験から知ってきました。
『雪』を知ったのは、寒い時期にスキーに行ったとき。5歳のときでした。車で移動していると、その感覚がいつもと違いました。雪がある場所は段差があるような、でこぼこした動きが多くなります」
田畑さんは、ことばで括ったときに同じ名前だとしても、それが置かれている環境によって、触れる感覚が違うことを語る。
「小学校1年でハワイに行ったとき。そこで砂浜を触りました。日本とハワイの砂浜でももちろん違うんです。ハワイは水・海も綺麗な感覚がありました」
田畑さんが使うコミュニケーション手段を体験
続いて、田畑さんが使う3つのコミュニケーション手段が紹介される。まずはひらがなやカタカナ、漢字などを手のひらに指先などで書いてことばを伝える「手書き文字」。
メンバーは2人1組になり、相手の手のひらに自身の指で文字をなぞる。ペアの片方がアイマスクを着用し、もう一方がホワイトボードに書かれた単語を見て実際に伝えてみる。
「ちょっと待って」「え、いまの一文字目?」「どの向きで書かれているのだろう」。読み取り手のメンバーは戸惑いながら、何が書かれているのか模索していた。
続いて、伝え手が自身の指で相手の手のひらをなぞるのではなく、相手の指を持ってなぞるやり方で単語を伝える。
「どうやって相手の指を持てばいいのだろう」「力加減が難しい」と伝え手。「あ、さっきよりはわかりやすいかも」と声を上げる読み取り手。手のひらを触るのが、自分の指なのか他者の指なのかでも感覚が変わることを再認識しているようだった。
「手書きだと一度に伝えられる情報が限られていて、時間がかかるので、普段わたしは触手話を使います」
田畑さんはこう述べると、触手話についてレクチャーをはじめる。伝える側の手が下、読み取る側が伝える側の手の上に自身の手を置いて、手話のかたちを読み取る。「読み取るときに、相手の手を持ったり強く握ったりしてしまうと、相手が動かしづらいので、そえる感じでやさしく触るのがポイントです」と田畑さんから共有。
続いて、メンバーは2人1組になり、触手話を実際に使ってみる。そもそも触手話は、話し手・読み取り手、共に手話を覚えている必要がある。そのため今回は、ある単語をペアの片方のメンバーに事前に教え、もう一方は、手の動きから何を指すのか考えていった。
「なんだろう」「なんか、ゆらゆらしているもの?」と読み取り手は想像をめぐらせる。しばらくして、ある単語が「海」だと共有があり、「塩を示す動作と、波打ち際をあらわすイメージの組み合わせから『海』という手話がつくられています」と田畑さんから解説がされた。
最後には、6つの点で構成される点字の組み合わせを、左右の「人差し指・中指・薬指」で相手の指を「トン トン」とたたいてことばを伝える「指点字」が紹介され、ワークの前半を終えた。
共に歩く・走る
後半は、2人1組になり、片方がアイマスクをした状態で、共に歩いてみることに。まず田畑さんが、それぞれのペアにロープを配り、伴走方法を共有する。
横並びに立ち、お互いの内側でロープを握って歩くこと。ロープの長さはペアのやりやすい長さを設定すること。伴走者は前に出すぎて引っ張らないこと。止まるときは伴走者が、相手の手の甲に自身の外側の手をそえること。路面の状況が上りのときは、内側の手を少し上に上げること、下のときは下にすること、進行方向を右にしたいときは、内側の手を右にずらし、左のときは左にずらすこと。
共有が終わると、実際に室内を探索。ナビゲーターの和田が、どんな場所にいるのかのイメージ「ハワイの火山口」「イタリアのシチリア島」を伝え、アイマスクをつけたメンバーは頭のなかで情景を想像しつつ、共に歩く時間を過ごした。
このワークが終わった後、メンバーそれぞれがどんな感覚だったか、お互いに共有する時間が自ずと生まれていた。それぞれの日常において苦労せず行っている行為。そのなかにある感覚にあらためて立ち止まることができ、喜んでいるようにも見えた。
その様子を感じ取った田畑さんから、自身が普段体験している触覚のアフォーダンスについての共有があり、続いてロープを使わないかたちでの共に歩く方法についてレクチャーが行われた。田畑さんが実際にデモンストレーションをしながら伝えていく。
アイマスクをしているひとを誘導するときは、誘導する側の肘か肩を持ってもらい、半歩前を歩くこと、慣れないうちはゆっくりとした速度で歩くこと。そして、実際にペアそれぞれで3331 Arts Chiyoda付近の散策をはじめる。
筆者もアイマスクをつけて歩いてみた。なんとなく知っている場所だからか、どのあたりを歩いているのか想定できる部分は多い。しかし、階段のへりの凹凸や地面が土のときと芝生のときのやわらかさの違い、道の傾斜が自身の歩き方に与える影響など、普段は通り過ぎてしまっている触覚情報と実際に出会うことができた、気がする。
途中、誘導してくれるひとが変わると、声のかけ方や肩や肘から伝わる振動の違いがあり、それも興味深かった。もしかすると、自身の緊張も誘導してくれるひとに触れている部分から伝わってしまっているのかもしれない。そう気づいたとき、触覚という領域の奥深さと恐ろしさどちらもあることを実感した。メンバーはどのように感じていたのだろうか。思いをめぐらせているなかで、「今日はこちらで終わりです」と声がかかり、今回のワークを終えた。
Text=木村和博