2022.2.5 (土)
第5回
場所:Zoom
「ユーザ」になりきって情報発信を考えよう
制作プロセスの早い段階で、できるだけこまめにさまざまな人からレビューを集め、多様な視点を反映していくことがアクセシビリティを向上させるためのひとつの手がかりになるとわかった前回。第5回では具体的なターゲットユーザ(ペルソナ)から一歩踏み込み、どのようにWebサイトに辿り着くのか。Webサイトと出会い、訪れ、帰るまでを想像しながら、カスタマージャーニーを辿っていく。
■PART.01:具体的なユーザと制作プロセスに巻き込む
いままでWebサイトをつくる際のモノサシのひとつとして「ユーザとは誰か」について考えてきた。そもそもユーザについて考える必要はあるのだろうか?という問いについても話し合われたが、ユーザの顔が直接見えないWebサイトで、仮面を掘るかの如くペルソナを設定することで主観と客観を行き来できたり、複数人のプロジェクトでゴールを共有するアイデアや方向性、論点をブレにくくすることがわかった。さらに前回、ペルソナを考えるところから進展し、ユーザについて知るための方法として「ユーザを制作プロセスに巻き込む」ことがアクセシビリティを向上させるためのひとつの方法として有効であるという話が挙がった。
「ユーザを制作プロセスに巻き込む」方法は、下記の3段階に分けられる。
①(完成前)「ペルソナ」:ペルソナ(ターゲットユーザ)を想定
②(制作中)「レビュー」」ユーザに実際に試してもらい意見交換
③(完成後)「ユーザテスト」:ユーザに実際に操作してもらう様子を観察
「ユーザテスト」とは完成したWebサイトを実際にユーザに使ってもらうことで、制作者側がその挙動を観察もしくはヒアリングしながら、改善に繋げる方法。最近ではZoomなどオンラインでのテストも増え、ページをひらいた状態を画面共有してもらいながら、「〇〇してみてください」とタスクをユーザに指示。タスク達成までの様子を録画・目視・メモなどに記録する。さらにユーザにはWebサイトを操作してもらいながら、頭の中で考えていること、例えば「メニューはどこかな?」「文字が多いな」などをできるだけ具体的に口に出してもらう形で確認することがポイントになる。
上記の図はユーザテストを実施する際に用いるという台本の例。
「ユーザテスト」を実施するときに重要になるポイントは下記の3つ。
・テストユーザが独力でタスクを完了できたか
・操作を間違ったり、無駄な操作をしていないか
・ユーザが困ったような、「?」な表情をしていないか
そして「分析」はせず、ただひたすら「観察」に徹することが求められる。
実際にナビゲータの萩原も実感しているというのが「ユーザーエクスペリエンス(UX)」の名付け親とも言われるD.A.ノーマン氏とWebユーザビリティの第一人者と言われるヤコブ・ニールセン氏が共同で設立したコンサルティング会社「Nielsen Norman Group」の研究。彼らの分析によれば、少なくとも5人のユーザテストを実施すれば十分な観察結果が得られるそうだ。
■PART.02:カスタマージャーニー
「ユーザとは誰か」について考えるために、①想定し、②意見交換し、③観察するプロセスがひとつの指針になることがわかったところで、PART.02では①想定する段階の精度を上げるべく、ペルソナにフォーカス。実際にペルソナはどのようにWebサイトと出会い、訪れ、帰るのか。自分の視点(主観)から離れて考える手法のひとつ「カスタマージャーニー」を用いて考察していく。
カスタマージャーニーとはWebやアプリ開発で使われるほか、商品開発やマーケティングの世界でも使われている方法。特にWebサイトは会員限定サイトなどでない限り、不特定多数の「色々な人」に使われることが想定されるが、そもそもその「色々な人」とは誰なのか?ここであらためておさらいしておくと、ペルソナ(persona)とは、「ユーザー中心設計やマーケティングにおいて、サイト、ブランド、製品を使用する典型的なユーザーを表すために作成された仮想的な人物像」のこと。
例えば下記3つのお題を比べてみるとどうだろう。
(1)お題:「ホワイトデーギフトを考えてください」
どこを足がかりに考えれば良いのか掴みどころがなく考えづらい。
(2)お題:「70代向けのホワイトデーギフトを考えてください」
こちらだとどうだろうか?少しだけ具体的なイメージが湧くかもしれない。
(3)お題:「普段あまりスイーツを買わない墨田区在住・元公務員・歴史好きの野田さん73歳向けのホワイトデーギフトを考えてください」
そう。つまりはペルソナを考えるというのはいかにも実在しそうなユーザをリサーチして想像することで、自分の視点・発想からは到達できなアイデアに辿り着くための、いわば発想法。ペルソナによって、商品の形、アイデアが具体化していく。
そこで登場するのがカスタマー(顧客)のジャーニー(旅)=「カスタマージャーニー」という考え方だ。実際にペルソナはどのような経路を辿り、商品に辿り着くことができるのだろう?経路を考える上では時間や空間、行動や環境による「フェーズ」を分け、その段階ごとにアイデアや訴求の方法を考えることがポイントになる。
例えば特定の商品について考える場合、商品とペルソナとの関わり方を、下記のように想定し、6段階に分けることができる。
さらにここから各フェーズごとに、(1)ペルソナの行動、(2)ペルソナとの接点、(3)ペルソナの考え、(4)こちら側のアクション、という4つの視点から考えてみる。ここで最初に登場する「商品の存在を知るフェーズ」は、いわゆるペルソナに当たる人物が、普段どのような生活習慣・生活環境で行動しているか、どのようなメディアに触れているかについて考えるのに有効だ。例えば洋次郎さんという人物を想定すると「街を歩く、新聞を読む、ラジオを聞く、史跡をめぐる」というキーワードが上がり、その上で洋次郎さんと接点をつくるのには「駅ばりのポスター・車内広告、新聞広告、ラジオ広告、史跡にあるお土産物屋さん」になりそうだということが見えてくる。さらにこの段階ごとに、ペルソナが何を考えているのか?を想像することでこちら側のアクションが自ずと導かれる。
スタディでは実際に各自が持ち寄ったテーマとなるWebサイトとペルソナを元に、カスタマージャーニーを組み立てた。
◎事例1:うごきずかん
以前からテーマとして取り上げてきた秋山の「うごきずかん」で設定したペルソナは「次世代の発掘育成を考えるプロデューサー」。「常に情報収集をしていていざイベントがあるときにこのアーティストがふさわしいと探し出し企画を考える」多忙な人物だ。実際に想定されるフェーズとしては「①知るフェーズ」「②調べる/思い出すフェーズ」「③比較検討するフェーズ」「④コンタクトするフェーズ」「⑤協働するフェーズ」の5つの段階を検討。ペルソナがWebサイトを知る以前「①知るフェーズ」に想定されることとしてあらかじめ情報収集が日常化しているプロデューサーは活動紹介が掲載されていることが多く、イベントの告知情報も多いFacebookなどのSNSをリサーチし、クリエイターの情報収集をしているのではないかと分析。導かれるペルソナとの接点はSNSが多くなってきそうだということと、リアルな口コミが多くなりそうだということが見えてきた。
◎事例2:船舶免許学校のWebサイト
最近取り組んでいるという「船舶免許学校のWebサイト」をテーマにした赤堀が設定したペルソナは「家業想いなサラリーマン」。「千葉県在住。アウトドアが趣味で2級小型船舶操縦士免許はすでに持っている。実家の漁業を本格的に手伝うことを決め、1級小型船舶操縦士免許の取得を考えている」人物だ。実際に想定されるフェーズとしては「①サイトを認知するフェーズ」「②船舶免許学校を比較検討するフェーズ」「③申し込みをするフェーズ」「④実際に学校に通うフェーズ」「⑤友人知人に勧めるフェーズ」の5つの段階を検討。ペルソナがWebサイトを知る以前「①サイトを認知するフェーズ」に想定されることとして「関東 船舶免許学校」などでGoogle検索すると、検索結果の上の方にGoogleMapが出てくる。そこでピンが立っている船舶免許学校のレビューを見て、興味のあるWebサイトに遷移するのではないか。また、同時にユーザの思いとして気がつくのが「リスティング広告がうるさいな」という点。検索結果の上部に上がるリスティング広告は、ペルソナからすると邪魔な存在であり、避けがちなので効果が見込めないのではという仮説が立ち上がった。また、同時に船舶免許学校など特定の需要がありテーマ性があるキーワードでは「まとめサイト」なども存在するため、検索結果ではない他のチャンネルにも接点がありそうだ。
カスタマージャーニーの制作は思いのほか時間を要し、スタディの時間内では終了しなかったが、ワークを経て見えてきたのは、ペルソナにとってはさまざまな「チャンネル=SNSやリアルな世界と並列にWebサイト」があり、カスタマージャーニーはペルソナとWebサイトの接点を段階を追って時間軸と世界軸から整理できるというということ。ペルソナという人物設定だけではその人物がどのように振る舞うのか、行動を主観的に物事を考えてしまいがちだが、カスタマージャーニーを経ることでWebサイトまでの導線の引き方の参考になる。
「リサーチ力があると思っていたけれど、カスタマージャーニーに必要なのはまったく違うスキル。想像の範囲を考えるのがとても面白いなと思うと同時に、私自身とても狭い世界で過ごしていると感じました(明貫)」という声も。今回は各自が別々のカスタマージャーニーに取り組んだが、実際のWebサイト制作では複数人でカスタマージャーニーに取り組むことも有効だ。
次回、第6回はついに最終回。最終成果物に向け、前回までに挙げられた「7つのもやもや」を軸に「もやもや事典」の編纂を進めていく。
Text=Moe Nishiyama