2021.12.10 (金)

第2回

場所:動画配信

アートプロジェクトにおける連携と役割

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To Yee-lok Tobeさんによるプレゼンテーションは、若者たちが映像を通して自らの物語を伝える表現活動。2009年から続くプロジェクト「All About Us」にはこれまで650人以上のエスニックマイノリティの中高生らが参加し、約70本の短編映像が制作されている。
2泊3日の映像制作キャンプで中高生たちはアーティスト、ソーシャルワーカーと交流しながらプロの技術を学び、撮影〜制作に取り掛かる。スクリプトの作成や、誰がディレクターや照明を行うかなどの役割も分担していく。カメラに触れたことがなくても映像に関心を持つ者同士、共同制作で自らの物語を伝える経験ができるのだ。作品は香港アートセンター内にある映画館のほか、公立学校や地域コミュニティなどでも上映されていて、これが参加者にとっての成功体験や誇りになる一方、地元の学生たちがエスニックマイノリティの生活や現状を知る場にもなっているという。
このプロジェクトで、参加者に映像制作のコンセプトやテクニック、楽しみ方を教えるのが「Teaching Artist」という存在だ。「All About Us」においてはフィルムメーカーであり先生役でもあるアーティストの呼称で、参加者に技術を教えるだけでなく共同制作のなかで中高生と良い関係性を築いていく。映像制作キャンプやワークショップの企画段階から参加してもらい、現場のフロントラインでエスニックマイノリティの中高生と主催をつなぐ役割も担っているという。
Tobeさんはまた、香港ではソーシャルワーカーのNPO団体が若者や高齢者、エスニックコミュニティといった特定のグループ層に福祉・支援サービスを提供しているという。このような福祉団体の方が香港アートセンターのようなアート団体よりも文化的差異や言語をよく知っていて多文化なエスニックの若者たちと接することに長け、より効果的に参加者とコミュニケーションをとることから、YMCAをはじめとする支援団体と連携し、プロジェクトの広報やアウトリーチでの協力関係も築いていると説明。
長期継続する「All About Us」の12年間の成果としては、このプロジェクトをきっかけに香港の映画に出演し、自身で映像を制作するなど映像・クリエイティブ業界でのキャリアをスタートさせた若者の例も紹介された。「All about us」10周年では、プロジェクトの卒業生も含めよりプロフェッショナルな経験ができるショートフィルムコミッションを実施している。そして現在も、中高生や香港ローカルアーティストたちによる短編映像の制作が進行中。いまだ取り上げられることの少ない香港のエスニックマイノリティの声、彼らの生活や何を感じながら暮らしているのかを、映像を通して届けている。
最後に、「All About Us」で活躍した中高生メンターが後に10周年のフィルムコミッションでアシスタントディレクターを務めた映像作品『パキスタンの詩』の一部を上映。エスニックマイノリティの言語や文化、宗教などの現状や彼らが直面する問題がどんなものなのか、少しでもイメージをつかんでほしいとプレゼンテーションを締めくくった。

後半はTobeさんと海老原のディスカッション。映像制作キャンプ「All About Us」やkuriyaのワークショップに共通していえるのは、香港でも東京においても社会的・経済的に困難な状況にある若者の参加は少なくないという点だ。経済的困難な状況ではワークショップに参加することのハードルは高くなるが、なぜ「All about us」は12年も継続できているのか?
そもそもエスニックマイノリティがアートや映像制作の表現を学び、映像を通して自らの声を発信できる機会は香港でも少ないこともあるが、文化的差異をよく知るソーシャルワーカーの存在も大きいという。アートプロジェクトの可能性を探る上でのソーシャルワーカーの役割について意見が交わされた。
kuriyaでワークショップをコーディネートしていた海老原にとって「若者と関係性が深まるにつれて色々と相談をされるようになっても、自身に支援者としての対応や解決法がわからず葛藤していた」という自身の経験からも、ソーシャルワーカーは課題解決の重要な役割を担うと期待する。
Tobeさんも「ソーシャルワーカーはエスニックマイノリティに対する知識や文化的配慮、言語面でのサポート、中高生参加者への接し方もよく知っているのでキャンプに必要だった」と説明。香港アートセンターが提携するYMCAにはエスニックマイノリティを対象に支援するセクションがあり、香港ローカルやエスニックマイノリティ当事者のソーシャルワーカーがいることも明かした。アート団体としてできることは少ないが、それでも若者が映像制作に関わる機会やキャリアを形成するきっかけになっているはずだと語る。言葉や文化の違い、差別などは彼らにとって疎外感の要因になり、エスニックマイノリティのみが通う学校で育った場合は言語面のハードルも高く、進路やキャリアに課題を抱える子もいるが、そうした若者たちにアート教育や映像制作を行うプラットフォームを提供できるかもしれない。今後を考えると資金面の課題もあるが、新たに実施した映画祭やフィルムコミッションからもつながる道はある、社会を変えていくためには継続性が必要だと意欲を示した。

Text=西内亜都子