2021.12.24 (金)

第3回

場所:動画配信

社会包摂の学びの場 ~担い手を育てる~

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Avinash Ghaleさんが、日本で働く親と暮らすために来日したのは2012年。新大久保の近くでネパール新聞のアルバイトを見つけたが、母語で話せる生活圏から新しい世界へ飛び込むことができない日々が続いた。そんなときに出会ったのが海老原だった。勤め先の新聞社はネパール人コミュニティとなっていたためメディアの取材などが多く、海老原もまた移民を対象としたインタビューを行っていた。
ネパールでも映像制作に携わっていたAvinashさんは、海老原に誘われたアートワークショップをきっかけとして、自然にアートプロジェクトとかかわるように。さまざまな文化圏の人と出会い、母国を離れ日本で暮らす人々は自分と同様の気持ちでいたことがわかると、お互いのつながりや自分の居場所を感じられるようになったという。アートは表現の一つのかたちだった。写真や動画を通じて若者たちの様子を記録するようになり、ドキュメント動画の制作や国際交流プロジェクトに携わることで、自身が一人の表現者であることを自覚する。アットホームな生活圏から出て、自身の企画を実施したいという思いも芽生える。ネパールにいた頃にアート集団のステンシルワークショップに参加した経験と知識をいかし、初めてのワークショップを実施する。このときのワークショップ「LIGHT PAINTING WORKSHOP」の様子がプレゼンテーションの最後に上映された。
ディスカッションではkuriyaでの活動を振り返る。Avinashさんがボランティアとしてかかわり始めた当初は19歳で、いろんなことに不安を抱えていたという。新聞社で働いた2年半は、ほぼ自宅と仕事場の往復だけで、電車の乗り方もわからない状態。しかしkuriyaで、日本の文化や物事の進め方を理解していく。講師となってワークショップを実施し、アートプロジェクトで日本各地に足を運ぶ機会も得て、自分と似た感覚の若者とも出会ってきた。「いま思えばおもしろい話ですが、怖かった電車に乗ることができたのは自分が成長した象徴です」と話すように、小さな積み重ねが自己成長に大きな影響を与えているという。同時に、日本の移民社会の状況や他国との違いを深く考えるようになる。見ためや振る舞いのことではない。母国を離れて生活するなかで「どうやって新しい友達をつくるか」「誰と過ごすか」「どう生きていけばいいか」悩みを知ることが一番重要な学びだったと話す。日本人と外国人の交流だけでなく、外国人同士だからこそお互いを関連づけることができる。同じ境遇の人が自分にとっての助けにもなった。そしてkuriyaは、日本人と交流するためのプラットフォームであると同時に、関係性を耕す場でもあったとした。上から教えるのではなく、スキルや知識をシェアし、アイデアや経験を分かち合おうとする。共同作業のワークショップで、参加者は個人的な話にも躊躇なく応じてくれた。ビデオや写真を撮っている相手は「もっと友達になりたい」という思いで心を開いてくれる。「カメラというツールを通じて対話をしていた」と話す。
海老原は、Avinashがアートのスキルを身に着ける目的だけでなく、移民コミュニティの状況に関心を持っていたことに改めて驚く。意識的に仕掛けていたわけではなかったが、kuriyaは日本人やミャンマー、フィリピン、ネパール、中国から来た若者とつながる第三の居場所だったのかもしれない。これを文化的なナビゲーターのような存在だと位置付け、日本社会へ新しく入ってきた人がより快適に過ごせるように言語や文化をナビゲートする、つまりソフトランディングができていたのではないかと興味を示す。教育者や研究者の立場からのインタビューや調査ではなく、ワークショップを一緒にやってきたことで、彼らの本音を聞くことができ、その声が政策提言にもつながっていった。
Avinashさんもまた、ネパール人の若者が心を開いて話したことをテーマやストーリーに取り入れて脚本を書き始めるようになり、映画製作をしたいとプレゼンテーションでも語っていた。kuriyaを通じて知り合ったNPOとプロジェクトを進めていて、うまくいけば短編映画にできるかもしれないと意欲的だ。
ーーー 今後、アートプロジェクトを企画する人にアドバイスができるとすれば?
例えばオープンマインドを持つこと。ネパール人にはシャイな若者が多く、自分から積極的に話そうとしない。Avinashさんはそうした一定の配慮が必要だと考える。海老原も、些細なことのようで有効なアドバイスだと共感。また、美術館などが既存の教育プログラムで移民の若者にワークショップを実施するのは難しいと感じたと話す。彼らはアルバイトといっても、単なる小遣い稼ぎではなく家族の生活のために働いている若者も多く、仕事を休んでまで文化活動に参加できない。そのような中で、当日にならないと参加人数も読みづらいが、固定化された形式にあてはめるのではあく、臨機応変な対処や柔軟な対応が必要になる。
Avinashさんはまた、移民コミュニティ内の問題は外に知られることは少なく、話すのが難しいテーマだと指摘する。在留資格などの制約があるなか、フルタイムで就業できない状況・課題にも触れ、アート作品やアートプロジェクトがそうした状況をより深く考えるきっかけになるかもしれない。地域社会やコミュニティ、国全体にとって、若者が大きな可能性な秘めた存在として捉えられる社会づくりの手助けになるかもしれないと語った。

Text=西内亜都子