2022.1.28 (金)
第4回
場所:動画配信
アーティストと共につくる
ミャンマーの友人、バングラディッシュの建設労働者、自身の親や友達と活動した作品の数々。Okui Lalaさんのアートワークはコラボレーターとの共同制作が多く、それは日常のつながりのなかで出会った人たちだ。ファシリテーターとして地元ペナンのNGOと写真・ビデオのワークショップを行うなど、コミュニティとつながったアートプロジェクトも実施している。近年のコロナ禍でオンラインミーティングを通じたチームの作品づくりや撮影の裏話も紹介された。
Okuiさんがkuriyaと協働した2017-18年「ルービックキューブツアー」で気づいたのは、参加者の観察力だったという。kuriyaで出会った移民の若者たちの力はセンシティブで、想像力がある。にもかかわらず、スキルをいかす機会が少ない彼らを、プロジェクトの共同制作者と位置付けて自主性を尊重したという。
Okuiさんが生まれ育った地元マレーシアは多文化な社会。多様な若者たちがいて、お互いに寛容であるという。生まれ育ったなかでアイデンティティを探し、強みを見つけ、歴史を知ろうとしてきたことが、協働の場でより良く接するために役立っているのではないかと明かす。
自身の活動では最初に移民の労働者と協働したことを起点に、対話が活動の一部となって、プロジェクトパートナーとの関係性も築かれていったと話す。これに対し海老原は、団体を運営する身としても、広く受け入れる心と対話することがさまざまなプレイヤーとの境界線を乗り越えるだろうと共感した。
kuriyaにもさまざまな背景の参加者がいる。Okuiさんは、社会福祉士や教育者、デザイナーなどの周りを取り巻く人まで多様な団体は珍しいという。アートプロジェクトひとつでも教育的な視点、社会福祉的な視点などが得られる。移民の若者が自己開示するのは簡単なことではないが、交流を図ってインプットしていくことができるのはkuriyaの強みだと話す。
海老原がそれを学んだのは、香港アートセンターの「All About Us」(第2回ゲスト)からだったと説明。プロジェクトに社会福祉士や教育関係者などさまざまな人が異なるセクターから参加する体制を見て、自分だけが多くの役割を担うのはサスティナブルでないことに気づいたからだ。最近はkuriyaにもアーティストやNPO団体、美術館から移民の若者とどのように協働すべきかの問い合わせが増えているが、Okuiさんのクリアな方法論は、将来プロジェクトを企画したい人に役立つはずだとアドバイスを促した。
Okuiさんは、ソーシャルメディアの影響もかもしれないが、マレーシアやシンガポールでも移民というトピックがポピュラーになり、多くの人が課題について知ろうとしている状況があるとして、同じ考えの友人たちとNPOにアプローチしてみることを提案。直接プロジェクトにつながらなくても何年後かに協働できる場合もある。
長い道のりのなかで、こことなら一緒にできると感じることもあると自身の経験をふまえて話す。NGOやNPOは社会に課題を知ってもらうことなど特定の目的があり、合致しないのであればパートナーを組む相手にはならないので、互いの共通点を見つけていく。直接課題について話すよりも、視点を提供し、どうすれば社会の関心を得られるかを話し合う。そこでもし共通の関心や協働する意味がみつからなければ「No」と言っても良いと加えた。
海老原は「Noと言ってもいい」というアドバイスにおもしろいと興味を示す。意図が合致しないなら団体側やアーティストからNoと言っても拒絶ではない。ジャッジから始めるのではなく、地道に関係性を築こうとする努力や労力にOkuiさんの誠実さが伺えると話す。
最後の問い「アートの力とは?」。海老原がkuriyaの前身の新宿アートプロジェクトで実施していたワークショップは、移民の子たちに友達や社会との接点をつくるというシンプルな目的だったが、さまざまな社会的課題を垣間見てからは課題解決に方向転換した。その転換により、常に課題解決というミッションに沿っているか、少しでも社会的変化や達成につながっているかを考えなければならず、時には矛盾を感じていたが、それでもアートはふと何かを乗り越えていくところがあり、社会課題と別のかたちで何かを解決する力があるかもしれないと考える。
対してOkuiさんは、インドネシアの家事従事者の方の言葉を引用し「アートはブリッジ(橋渡し)。異なるコミュニティに橋を架けるもの」と表現した彼女自身の言葉に意味があり、それが答えだと示した。彼らが直面する困難を無視するわけではないが、移民や難民をステレオタイプで語るのではなく、私たちと同じ人間で、夢を抱く若者たちであることを、パートナーやkuriyaから学んだと語った。
Okuiさんがインドネシアの家事労働者と制作したドキュメンタリーは、近日公開される。コロナ禍でのオンライン制作となったが、YouTuberが使う道具なども手軽に利用できるようになって、活動のメソッドは変わったという。友人たちとの新しい体験に意欲を示すOkuiさんの今後の展開と、次の来日でプロジェクトを協働できることを期待して、ディスカッションを終えた。
Text=西内亜都子