2022.2.25 (金)

第5回

場所:オンライン

ゆるやかなつながりと制度・基盤づくり

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三富章恵さんをゲストに、新宿アートプロジェクトの時代から政策提言までの長い道をたどった第1回。海老原は「10年間」をキーワードに挙げ、軌跡の重みを感じたと振り返る。なぜ日本語教育でなくアートなのか、エンパワメントとは何かを理解されなかった当初から、地道に小さな実績と信頼を積み上げたことや、オリンピック開催決定の流れからダイバーシティや多様性の概念が入ってきたことを背景に、理解者が増えている状況にも触れる。
第2回はTo Yee-lok Tobeさんの「言葉ではないかたちで伝えていく」話を取り上げ、アートや映像だからこそ、物語を伝えることができることを再認識した。香港アートセンターの映像制作キャンプ「All about us」がソーシャルワーカーやエスニックコミュニティと仕組み化されていたことにも改めて感心する。中高生の表現行為が、次のクリエイティビティにつながり、メンバー同士のコミュニティがプラットフォームになっていく。ティーチングアシスタントの存在や、制作後に上映会で移民の若者たちの物語が周知され、教材キットも普及させている「All about us」の活動は、学びが多いと坂本も関心を寄せる。
このようなアートプロジェクトに参加するモチベーションは、役割をもって参加できるkuriyaの表現の場づくりにも通じるのではないかと印象を語った。役割については、海老原にとっても一つの機能として大事な要素になっていて、第3回のテーマにもつながるという。第3回のゲスト、Avinash Ghaleさんのエピソードで海老原の記憶に強く残るのは、立派にユーススタッフを務めていた彼が「最初は東京が怖かった。家から出られなかった」と話したこと。彼の成長を感じると同時に、アートワークショップが社会的機能をもっていたことに気づいたと話す。
第4回ではOkui Lalaさんが話した「Noと言っていい」という言葉から、価値観の違いを認めるという気づきを得た。Noと言わず、オブラートに包んでしまう文化であっても、良い協働を生むためには、正直に、素直に、自分の気持ちを伝えることが大事。坂本は、Okuiさんが多文化な若者を「マルチカルチュラルユース」と表現していたことも取り上げ、「外国ルーツ」という言葉が一般には伝わりにくいと指摘。対象やテーマを言葉で表す時には、宗教や民族、家族、NPOなどの団体も含めたコミュニティとの協働を考えるうえでも、配慮が必要になる。
後半は、定時制高校での放課後部活動を実施した「Betweens Passport Initiative」以降の海老原の取り組みを紹介。一つは、NPO法人のカタリバが立ち上げる外国ルーツの高校生の支援事業に、kuriyaが培ってきたノウハウをシェアするかたちで連携したこと。カタリバのような大規模な団体に新しい担い手になってもらいたいと考えたからだ。都立高校でのキャリア教育や、進路をサポートするオンラインでの伴走支援、大学生インターンなどのユースワーカーによるマンツーマンの日本語教育などに、海老原はパートナーとしてかかわっている。
もう一つは、外国人生徒が増えている都立高校に、東京都教育委員会から派遣されるユースソーシャルワーカー(社会福祉士などの専門職)への多文化研修。若者たちの来日の背景、文化圏を超えることで生活に影響を与えるストレス、在留資格といったテクニカルな話も研修に取り入れているという。
いずれも外国ルーツの若者の環境を整備するために取り組んでいるが、外国ルーツの若者だけでなく、日本人の高校中退者に対してもソーシャルワーカーを含めた居場所づくりや就労支援の機会は少なく、圧倒的に福祉のインフラが弱いという。若者が社会課題に直面した時につなげる先のソーシャルワーカーや団体がなかったという自身の経験もあり、担い手の研修を含めた制度や基盤づくりの必要性を指摘する。
一方で、アートプロジェクトが社会参加の機会になっていることは、本シリーズの対談でも話されてきた。Okuiさんが、強い政策提言のようなアドボカシー活動の側面に、ソフトボイスも必要だと話したことに触れ、正解・不正解を問わないゆるやかなつながりや、何のためにやっているのか「軸がぶれない」ことが大事だと話す。
本シリーズを振り返り、海老原は一人称で活動の軌跡を綴った著書とはまた違って今回の取り組みには感慨深いものがあり、協働の心得になるようなこと、渦中にいた時にはわからなかった意義に気づくこともあったと述べた。ライブ配信の参加者から、チームのなかでの軸をどう言語化するのかを問われると、活動が誰のため、何のためかに立ち返ることで、周りへの発信もできているのではないかと説明。
坂本からは、海老原が手探りと試行錯誤のなかで続けてきた活動には軸があると話し、最後のまとめとした。

Text=西内亜都子